【おにぎりみたいなお話作り】六人の家来@そだひさこ

前記事に引き続き、別のお話もイメージ拾いをしてみよう。
と、選んだのは「踊ってすり切れた靴」の次「六人の家来」。(小学館文庫『1812初版グリム童話〈下〉 (小学館文庫)』グリム兄弟・乾由美子訳 より)

でも、踊ってすり切れた靴みたいにすいすいと拾って行けませんでした。文を少し作り直さなければならなくなる。
で、こんな感じに。

歳とったお妃
美しいお姫さま
難題
王子
小山のように太った男
聞き耳
山よりも背の高い男
目かくし男
寒がり男
あらゆるものが見える男
海に落とした指輪を見つける
太った雄牛300頭を食べ尽くす
地下の酒蔵の葡萄酒300樽を飲み干す
夜中の12時ちょうど
岩の中に座って自分の運命を嘆いている
燃える火の中に座って三日の間じっと我慢する
騎士たちはガラスのように砕け散る
宿屋
豚飼い
結婚式

これも不思議なお話なんだけれど、拾えたイメージが少ない。
そしてこのお話は、私にはちょっとごちゃごちゃしているふうに感じられる。

これ、本当にこの形のまま語り継がれてきたのかな。
順番を入れ替えたい、端折りたい付け加えたい、ああ、つ、作り直したい・・・

ということで、「六人の家来@そだひさこ」です。

昔々ある宮殿に、歳とったお妃さまと、美しいお姫さまがおりました。
美しいお姫さまのところには、たくさんの若者が、お姫さまに結婚を申し込みにやってきました。歳とったお妃さまは、若者たちに難題を出しました。若者たちは誰一人難題を解く事が出来ませんでした。お妃さまは失敗した若者たちを、大きな刀で容赦なく斬り捨てました。

 

あるとき、ひとりの王子が、このお姫さまに結婚を申し込もうと、お妃のいる宮殿に向かいました。
王子がしばらく行くと、たいへんに太った男が地面に座っておりました。その男の大きさは、まるで山のようでした。太った男は王子に言いました。
「私はこの身体を、三千倍にも太らせる事ができますよ。私を家来にすれば、きっとお妃さまの難題も解けるに違いない」
王子は太った男を家来にして、宮殿に向かいました。

それからしばらく行くと、今度はたいへんに背の高い男が地面に寝そべっておりました。背の高い男は王子に言いました。
「私は世界のどこへでも、たったの三歩で行く事ができますよ。私を家来にすれば、きっとお妃さまの難題も解けるに違いない」
王子は背の高い男も家来にして、宮殿に向かいました。

それからしばらく行くと、今度はあたりを見回している男がおりました。王子は男に、何を見ているのかと尋ねました。男は王子に言いました。
「私は目をこらせば何でも見えるんです。ほら、あの魚の胃袋の中には、あいつが間違えて呑み込んだ銀貨が1枚ありますよ」
王子はその魚を捕まえて、胃袋の中を調べました。すると本当に、銀貨が1枚出てきました。王子は何でも見える男も家来にして、宮殿に向かいました。

それからしばらく行くと、今度は目隠しをして座っている男がおりました。王子は男に、どうして目隠しをしているのかと尋ねました。男は言いました。
「私がこの目で睨んだものは、何でも砕け散ってしまうのです。だから、何も見ないように目隠しをしているのです」
王子はさっきの銀貨を取り出すと、男の前に置きました。そして男の目隠しを取りました。男は目の前に置かれた銀貨を、キッと睨みました。するとその瞬間、銀貨は音をたてて砕け散りました。王子は再び男に目隠しをすると、この男も家来にして、宮殿に向かいました。

それからしばらく行くと、あたりが熱くなってきました。どうやら近くの山が噴火して、熱い溶岩が噴き出したようでした。王子も家来もびっしょりと汗をかきながら行きました。すると、ひとりの男がぶるぶると震えながら立っておりました。王子は男に、どうして震えているのかと尋ねました。男は言いました。
「私は熱ければ熱いほど寒くて仕方がないのです。あの山が噴火してから、寒くて寒くて、どうしてよいやらわからない!」
王子はこの寒がり男も家来にして、宮殿に向かいました。

それからしばらく行くと、耳をぐるぐるといろんな方向に向けている男がいました。それはまるで猫の耳のようでした。王子は男に、何か聞こえるか、と尋ねました。男は言いました。
「私の耳は、地球の裏側にいる小鳥のさえずりだって聞こえるんです。ああ、今あの宮殿のほうから刀を振る音が聞こえましたよ。また求婚者が命を落としたようだ」
王子はこの聞き耳男も家来にして、宮殿に向かいました。

やがて王子たちは宮殿に着きました。王子は美しいお姫さまに、結婚を申し込みました。すると、歳とったお妃さまが言いました。
「まず私の出す課題をやりとげなさい。いいですか、向こうの草地に太った牛を三百頭放してあります。その三百頭を、明日の朝までに骨一本残さずに全部食べる事。それから、この宮殿の地下の酒蔵に、葡萄酒が三百樽あります。その三百樽の葡萄酒を、明日の朝までに一滴残らず飲み干す事。食べたり飲んだりしてよいのは一人だけです。明日の朝、少しでも残っていたら、あなたの命はありませんよ。」
そしてお妃さまとお姫さまは宮殿の奥に行ってしまいました。

こんな課題をやりとげられるわけがない、と皆は言いました。しかし、太った男は立ち上がり、「なんでもないことさ」と言うと、草地へ行って牛をひょいとつまみあげ、ぽいぽいと口に放り込み、次々にたいらげてゆきました。そして牛を全部食べてしまうと、こんどは宮殿の地下の酒蔵へ行きました。そして樽をひょいとつまみあげ、栓を抜いてごくごくと飲み、ついには全部飲み干してしまいました。皆は拍手喝采、大喜びです。

朝になり、お妃さまとお姫さまがやってきました。お妃さまは刀をたずさえていました。しかし、牛も葡萄酒もすっかり食べ尽され飲み尽されているのを見ると、愕然としました。王子は言いました。
「さあ、課題はやりとげましたよ。美しいお姫さま、私と結婚してくれますね」
しかしお姫さまが返事をする前に、お妃さまは叫びました。
「いいえ、まだ課題は終わってはいません。次は、私が落とした指輪を探してもらいます。明日の朝までに見つける事ができなかったら、あなたの命はありませんよ!」
そしてお妃さまとお姫さまは宮殿の奥に行ってしまいました。

王子は何でも見える男に、指輪のありかを尋ねました。何でも見える男は、まわりをゆっくりと見回しました。そして言いました。
「ここからいちばん遠い、氷の浮かんだ海の底に、鍵のかかった小さな鉄の箱が沈んでいます。その中に、お妃さまの指輪がありますよ。」
すると、背の高い男が、何でも見える男を右の肩に、目隠し男を左の肩に乗せ、指輪のある海まで、いーち、にーい、さーん、と歩いて行きました。そして、何でも見える男の言う通りに右腕をぐーんと伸ばして、冷たい海の底から小さな鉄の箱を掴みあげました。次に目隠し男が目隠しを取り、その小さな鉄の箱を、キッ、と睨みました。すると、鉄の箱は音をたてて砕け散り、背の高い男の手の中にはお妃さまの指輪だけが残っていました。皆は拍手喝采、大喜びです。

朝になり、お妃さまとお姫さまがやってきました。お妃さまは刀をたずさえていました。しかし、王子が差し出した指輪が自分の指輪だとわかると、愕然としました。王子は言いました。
「さあ、課題はやりとげましたよ。美しいお姫さま、私と結婚してくれますね」
しかしお姫さまが返事をする前に、お妃さまは叫びました。
「いいえ、まだ課題は終わってはいません。次は、三千本の薪が燃えているその炎の中に座って、三日三晩過ごしてもらいます。もしできなければ、あなたの命はありませんよ!」
そしてお妃さまとお姫さまは宮殿の奥に行ってしまいました。

こんな事をやりとげられるわけがない、やれば焼け死に、やらなければ斬られ死ぬだけだ、と皆は言いました。しかし、寒がり男は立ち上がり、「何でもないことさ」と言うと、炎の中に入って行きました。そしてそこに腰をおろし、ぶるぶると震え出しました。「寒い、寒い!助けてくれ!」と寒がり男は言いました。皆は「頑張れ、頑張れ!」と言いながら寒がり男を見守りました。そして、ついに三日三晩が過ぎました。寒がり男は炎の中から走り出て来ました。皆は拍手喝采、大喜びです。

この様子をずっと見ていたお妃さまは、愕然としましたが、もう、どうにもなりませんでした。王子は言いました。
「さあ、課題はやりとげましたよ。美しいお姫さま、私と結婚してくれますね」
お姫さまは、もちろん、と返事をしました。そして王子と家来たちと一緒に馬車に乗り、王子の城へと向かいました。
しかし、お妃さまは悔しくてなりませんでした。そして、王子の乗った馬車が走り去ってしまうと、騎士たちの所へ行き、騎士たちに、王子の馬車を襲って王子を殺し、お姫さまを奪い返してくるように命令しました。
ところがそのとき、王子の馬車に乗っていた聞き耳男の耳がくるくると動き、このお妃さまの命令を全部聞いてしまいました。聞き耳男はこの事を、目隠し男に話しました。目隠し男はすぐに、馬車の外に顔を向けました。聞き耳男は近づく騎士たちの気配をとらえると同時に目隠し男の目隠しを取りました。目隠し男は追ってくる騎士たちを、キッ、とひと睨みしました。すると騎士たちは、ガシャンと音をたててガラスのように砕け散りました。

やがて馬車は王子の城に着きました。王子と美しいお姫さまはそろってお城に入り、お城ではすぐに二人の結婚式が始まりました。六人の家来たちは、この盛大な結婚式で二人に惜しみない拍手を贈り、すばらしいごちそうを食べ、おいしいお酒を飲み、歌い踊り、心から愉快に笑いました。
やがて楽しい宴が終わると、王子と家来たちはお互いに固い握手をかわしました。それから六人の家来たちは、家来をやめて、またそれぞれ別のところへと旅立って行きました。めでたし、めでたし。

どこをどう変えたのか。大雑把にはこの三つ。
◆家来たちの初登場の順番。
グリムでは「太った男・聞き耳男・背の高い男・目隠し男・寒がり男・何でも見える男」ですが、これを「太った男・背の高い男・何でも見える男・目隠し男・寒がり男・聞き耳男」にしました。理由は、登場の順番を少しでも覚えやすいようにしたかったから。
◆難題の順番と内容。
グリムでは「妃が紅海に落とした指輪を見つける・雄牛三百頭と葡萄酒三百樽を完食する・けっして眠らず、夜中の12時ちょうどにお姫さまが王子の腕の中にいるようにする」という妃の難題に加え、結婚を不服に思うお姫さま自身の「家来を一人、燃える火の中にすわらせてじっと我慢させる」という、全部で4つの難題があります。家来たちの活躍も、登場順と同じではなく、また一度きりの活躍の家来と何度も活躍する家来がいます。
この難題を三つにして、全て妃の難題にし、家来たちの活躍も初登場順&一度ずつ、にしました。「雄牛三百頭と葡萄酒三百樽を完食する・妃が海に落とした指輪を見つける・炎の中に座って三日三晩過ごす」。聞き耳男は難題ではなく追っ手に対処するところでの活躍です。それから目隠し男だけが二度の活躍ですが、イメージ拾いの時の『騎士たちはガラスのように砕け散る』というのがとても昔話っぽくてきれいだったのでぜひ使いたかったのです(騎士たちにとってはいい迷惑ですが^^;)。
◆お姫さまが豚飼いとして働くところをなしに。
課題を三つにした関係で、つまりお姫さまが課題を出さないことで、お姫さまが高慢だという場面がなくなり、それに対する報いが必要なくなりました。

「昔話はするっと作れる」という持論をもとにこんな勝手な事をしてみましたが、もとのお話の面白さはちゃんと残っているのでしょうか、それとも台無しに、、
現在作り終えた直後(自己満足中)ゆえ、数日おいて見直してみる事にします。

2013.6.14追記

昔話の特徴などについては、別サイトの「昔話の様式ってこんな感じ」、「文献を自分なりに解釈してみた」にも書いています。

2021.12 追記

「昔話」の意味
昔から語り継がれてきた(主として、祖父母が囲炉裏端で孫たちに語って聞かせた)物語。口承の物語。時代・場所・人物を特定しない架空の話。「耳で聞く物語」としての昔話の文法が存在する。

昔話にたいする「再話」の意味
実際に語られていたもの(昔の言葉や土地の言葉だったりする)を、今の子供達がわかるような文章にする。昔話の文法に照らし合わせながら、自分の言葉で、自分が語れるように再話しなおす。

*  *  *

この記事を書いた人
たまに、加賀 一
そだ ひさこ

子ども時代はもちろん、大人になっても昔話好き。
不調で落ち込んでいた30代のある日。記憶の底から突如、子ども時代に読んだ昔話の場面がよみがえる。その不思議さに心を奪われて、一瞬不調であることを忘れた。自分は昔話で元気が出るんだと気づいた。

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