昔話の特徴をまとめる:5

(いつまでやってるんだ、って感じですが)
◆昔話の特徴 の続きです

・三回繰り返しの意味

三回繰り返しというのは昔話の大きな特徴であると思います。この「三回」というのは文字通りの三回なのではなく、何回も、ということの象徴なのだそうです。たとえばある繰り返しのエピソードを、何回もということで本当に五回六回と繰り返して聞かせられたら…、語り手には申し訳ないけれど、たぶん飽きます。
これを、すっぱり三回という定型にしてあるのは、潔いというか何というか、気持ちが良いです。しかも三回目を他の二回とは少し違うものにして(コントラストをつけて)あったり、または贈り物の美しさや課題の困難さが一回目より二回目、二回目より三回目がより大きいという「せり上げ」であったり、というのは、気持ちも高揚して行くし、形としてもきれいだと思います。

また、三回でなくても繰り返しはよく用いられます。
言葉で言われたことがのちに出来事として繰り返されたり、出来事がのちに言葉によってもう一度繰り返されたり。
言葉で言われることで緊張感が生まれ、出来事として繰り返されることで、ある種の安心、緊張が解ける、のだそうです。

・孤立したエピソード(モチーフ)

登場人物のところで、「孤立性」は昔話の登場人物だけではなく物やモチーフなどすべてに浸透している、と書きました。モチーフも孤立している、というのが少しわかりにくいのですが、たぶんこういうことなのだと思います。
昔話でよくある、三回繰り返しのエピソードで全部同じ状況にもかかわらず以前と同じ失敗を平気でする、などという場合。すでに同じ状況の三回目であるにもかかわらず、初めてその状況にでくわしたかのような反応をすることがあります。これは、三つのエピソードそれぞれが孤立していて、互いに関連し合っていない、それひとつですでに形になっているものだからだそうです。つまりひとつひとつがそれぞれ別の「カプセルに入っている」と説明されてありました。
まるでレース編みのモチーフ繋ぎの小さなモチーフのひとつのように、それひとつでも充分に美しいけれど、それが繰り返され繋がれることで全体の美しさも生まれる、といったような。
同じメロディが一曲の中で何回も繰り返されると、やがてそのなじみのあるメロディに安心感を持ったり喜びを感じたりする、そういう効果があるのだと思います。

・アイロニー

意図した事と反対の事が起こる事、だそうです。昔話の場合はこれがとても面白いのです。こんなエピソードを自分で考えだしてみたいものであります。

…本人が獲得しようと務めたり期待していたものの反対の事が起こる場合には、いつでもアイロニーということができるのである。事が、考えていたよりも悪い場合には、悲劇的アイロニーということができる。…中略… 出来事のアイロニーが認められるのは、何よりもまず悲劇的な、つまり同じく否定的なアイロニーの形においてである。それゆえ、わたしは、比較的稀な、肯定的アイロニーを、逆アイロニーとよぶ。これは文学においても、人生においても、比較的稀である。ところがメルヒェンでは、メルヒェンのあかるい性格ゆえに誰しも期待するとおり、この逆アイロニーが支配的なのである。…中略… 運命のアイロニーは、自分を死に追いやるはずの手紙の持参者が救われる事を望むばかりか、高められる事を望む。つまり彼は、その手紙を持って行けと命じた悪い男の娘と結婚する。しかも、それが命令者のさしずでおこなわれたかのようである。その際若者は、まったく余計な事に、盗賊たちに捕えられる。だが、このときすでに、若者を破滅させるはずの手紙が、彼を救っている。すなわち、盗賊たちはその手紙をむりに開ける。そして手紙が盗賊たちの反対行為を呼び起こす。つまり、自分たちはこの若者を殺すつもりだったのに、手紙によってすでに死への道を歩かされていることを知ると、若者を殺すかわりに、死の手紙を幸せの手紙に書き換えてやるのである。…昔話その美学と人間像より引用

昔話その美学と人間像

・模倣

 姉が井戸に落ちてホレおばさんのところで働き、身体に金を付けて帰ってくる。怠け者の妹が真似をするが、まったく不完全にしか真似をしないので、身体にタールをつけられて帰ってくる。(後からの模倣、しかも失敗。しかしコントラストがつけられているのでお話の形としてはきれいに成功している。)
話のできる鳥から秘密を聞いた主人公はそれを利用する。非主人公は真似をするが、秘密を盗まれて怒っていた秘密の持ち主に犯人だと思われてしまい、引き裂かれる。
(偶然に異次元の世界に接触した貧乏人はそこから富を得、無理矢理に異次元の世界に行った強欲者は罰せられる。自分から不幸に向かって進んでいく。三つの願い事のおかみさんのように)
魔女が、捕えた子どもにパン焼き窯に入る方法を教えるが、自分が窯に押し込まれてしまう。(先取り模倣、しかも失敗。目的が達成できなかっただけではなく、自分が考えだした方法で自分が命を落とす)
昔話その美学と人間像からほぼ引用

昔話その美学と人間像

2013.6.14追記

昔話の特徴などについては、別サイトの「昔話の様式ってこんな感じ」、「文献を自分なりに解釈してみた」にも書いています。

2021.12 追記

「昔話」の意味
昔から語り継がれてきた(主として、祖父母が囲炉裏端で孫たちに語って聞かせた)物語。口承の物語。時代・場所・人物を特定しない架空の話。「耳で聞く物語」としての昔話の文法が存在する。

昔話にたいする「再話」の意味
実際に語られていたもの(昔の言葉や土地の言葉だったりする)を、今の子供達がわかるような文章にする。昔話の文法に照らし合わせながら、自分の言葉で、自分が語れるように再話しなおす。

* * *

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この記事を書いた人
たまに、加賀 一
そだ ひさこ

子ども時代はもちろん、大人になっても昔話好き。
不調で落ち込んでいた30代のある日。記憶の底から突如、子ども時代に読んだ昔話の場面がよみがえる。その不思議さに心を奪われて、一瞬不調であることを忘れた。自分は昔話で元気が出るんだと気づいた。

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コメント

  1. のこ より:

    子供の頃 母が私を叱る時に「何回も三回も同じ事言わせないで」と言っていました。
    何回も「三回も」って・・・・??? あ これは全然関係ないですね(笑)
    久子さん「おおきなカブ」で 次から次へと登場人物がやってきて 同じようにカブを引っ張るってのは このことかな~?↑

  2. 久子 より:

    のこさん、「何回も三回も」って面白い言い方ですねー(@@)
    三回っていうのは普段でもけっこう使われていますよね、うんうん。
    「おおきなカブ」は込み入った話ではないし三回でもないけれど、いろんな登場人物がくっついて同じようにカブをひっぱるその様子が、聞いても絵本で見ても楽しいですよね(絵本きれいだし!)
    それにね、大きさの順に出てくるから聞き手も次を想像して期待できるし、図形的にも(?)とても美しい、おすすめの昔話だそうですよー。

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