【作品】「ふたごの小石」

ふたごの小石

むかしむかしあるところに、大きな家と小さな家がありました。
大きな家には男の子が住んでいました。そして、小さな家には女の子が住んでいました。
大きな家は裕福で、たくさんの家具や、服や、本や、オモチャや、そのほか数えきれないほどのすてきなものがありました。
小さな家は貧しくて、ご飯を食べるテーブルと椅子、それにベッド、それから少しの服があるだけでした。
さて、大きな家の男の子と小さな家の女の子は仲良しでした。天気の良い日はふたりで一緒に野原で過ごしましたし、雨のふる日はお互いの家に遊びに行ったり遊びに来たりしました。

さて、その日、ふたりが野原で遊んでいると、雨が降ってきました。ふたりは「どうしようか」と相談しました。そして、女の子の住んでいる小さな家に行く事にしました。
ふたりが小さな家に着くと、女の子のお母さんが扉をあけてふたりを迎えてくれました。そしてふたりの髪を拭いて、椅子に座らせ、あたたかいお茶を飲ませてくれました。
「あんたたちは、本当に仲良しだねえ。」
と、女の子のお母さんはふたりを見ながら言いました。そして、前掛けのポケットから、小さな小石を二つとりだしました。
「さっき、洗濯物を取り込んでいるときに草陰で見つけたんだよ。きれいだろう?」
男の子と女の子は、お母さんがテーブルに置いた石を見ました。小石はどちらも丸くてすべすべしていて、夜空のような色でした。そして、どちらも真っ白のきれいな線が一本すっと通っていました。二つの小石は、まるでふたごのようにそっくりでした。
お母さんは言いました。
「私はね、このそっくりの二つの小石を見つけたとき、すぐにあんたたちの事を思い出したんだよ。もしこの小石が気に入ったのならあんたたちにあげるから持ってお行き。」
ふたりはひとつづつ小石をとると、嬉しそうに手に乗せて、お互い見せ合ったり、顔を見合わせて笑ったりしました。

しばらくすると雨がやんで、夕ご飯の時刻も近づいてきました。男の子は小石を大事にポケットにしまって、大きな家へ帰って行きました。女の子は手を振って見送りました。

その夜、小さな家で、女の子がこれからベッドに入ろうというときに、急に家の外が騒がしくなりました。女の子が窓の隙間からのぞいてみると、盗賊達が馬に乗って村へやって来ていました。女の子はびっくりして、そして恐ろしくて、身動きができなくなり、そのまま窓の隙間からじっと外を見ていました。
盗賊達は、大きな家へ向かって馬を走らせました。そして大きな家に着くと、宝石や金貨をごっそりと盗み出し、それからひどいことに、家の人たちを捕えて、さらって行ってしまいました。男の子も、連れて行かれてしまいました。

女の子は、その夜、一秒も眠る事ができませんでした。男の子と、男の子の家族が盗賊にさらわれてしまったのです。女の子は朝になると、大きな家へ駆けて行きました。そして、そこに、本当に男の子がいない事を確かめたとき、女の子は身体の力が抜けて、ぺたんと座り込みました。そして、急に目から涙がこぼれました。そして、いつまでもいつまでも、涙は止まってくれませんでした。
やがて、女の子のお母さんが、大きな家に女の子をむかえに来てくれたので、女の子は泣きながら、でもどうにか、小さな家に戻る事ができました。

それから長い時間が経ちました。
女の子は、すっかり大きくなっていました。でも、あまり笑わなくなっていました。ですから、昔の女の子を知っている人は、今の大きくなった女の子を見ても、すぐには気がつかないほどでした。
あるとき女の子は、大きな町へ用事で出かける事になりました。女の子は、あの小石を紐で結わえて首から下げ、いつも大事に身につけていました。しかし、何年も経ったので、紐がすっかり古くなり、この日の朝、紐が切れて小石が落ちてしまったのです。新しい紐がなかったので、女の子は仕方なく、大事な小石をお財布にしまいました。そして町へ出かけました。

町へ着くと、女の子は用事を済ませるために役所へ向かいました。しかしその途中、後ろから、身の軽い男が走って近づいてきて、女の子の布かばんをひったくって走っていってしまいました。布かばんの中にはお財布が入っていて、お財布の中には大事な小石が入っていました。女の子は男を追いかけようとしましたが、そのときはもう男はどこへ逃げたのかわからなくなっていました。
女の子は、すっかり元気をなくして、小さな自分の家へ帰ってしまいました。

ところが、何という事でしょうか。女の子の布かばんをひったくって逃げた男は、あの日大きな家から盗賊にさらわれてしまった男の子でした。
男の子の家族はさらわれてすぐに外国に売られてしまい、この男の子は盗賊たちが盗みを教えて働かせていたのです。男の子は、盗賊の命令を聞かなければ、自分が盗賊に殺されてしまうことがわかっていたので、盗賊の命令に従って、盗みを働いていたのです。
男はかばんの中の財布をあけて、女の子の大事な小石を見つけると、ぶるぶると震えました。そして、自分のシャツのポケットから、大事に持っていた小石を出して、握りしめました。そして、大きな涙をこぼし、次には、大声を出して、泣きました。
その日、男は盗賊のもとから逃げ出しました。

それからまた長い時間が経ちました。女の子は結婚して、小さな家で暮らしていました。
そして子どもが生まれ、その子どもが大きくなって家を出てゆき、女の子はお婆さんになりました。
ある日の午後、雨が降ってきたので、お婆さんは、洗濯物を取り込むために家から出てきました。すると、入り口のわきに、何かが置いてありました。
お婆さんはそれを拾い上げて、はっとしました。それは、あのとき町へ持っていったお財布でした。中を開けると、ふたごのようにそっくりな小石が二つ、大事に入れてありました。お婆さんはあたりを見回しましたが、もうそこにはだれもいませんでした。

ほどなくして、お婆さんは病気になりました。お婆さんが寝ているベッドのそばの小さなテーブルには、いつも二つの小石が置いてありました。お婆さんの子どもたちが看病に来ていましたが、この小石のことは何も知りませんでした。子どもたちがお婆さんに小石のことを聞いても、ただ、お婆さんは、こう言うだけでした。
「これはね、私の大事な思い出なんだよ。」
そして間もなく、お婆さんは亡くなりました。お婆さんの子どもたちは、あのふたごの小石を、お婆さんのお墓の石の下に大事に埋めて、手を合わせました。

あの大きな家の男の子がそれからどうなったのかは、誰にもわかりません。

* * *

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この記事を書いた人
たまに、加賀 一
そだ ひさこ

子ども時代はもちろん、大人になっても昔話好き。
不調で落ち込んでいた30代のある日。記憶の底から突如、子ども時代に読んだ昔話の場面がよみがえる。その不思議さに心を奪われて、一瞬不調であることを忘れた。自分は昔話で元気が出るんだと気づいた。

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