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「役立たずの魔法」

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役立たずの魔法

 昔々あるところに、魔法使いがおりました。ところがこの魔法使いは、何の役にも立たない魔法しか使う事ができませんでした。ですからこの魔法使いは「皆が困ってしまうような魔法を使ってみたいものだ」と思っていました。
 あるとき魔法使いは、神さまが住んでいる白い御殿の白い屋根を、魔法で赤く変えてしまいました。しかし神さまは、家の屋根が赤くなったところで、何にも困ることはありませんでした。
 またあるとき魔法使いは、南の島の大統領の家の庭で、バナナの木をマンゴーの木に、マンゴーの木をバナナの木に、取り換えてしまいました。しかし大統領は、今まで通り庭でとれたバナナやマンゴーを食べることができるので、何にも困りませんでした。
 また別のあるとき魔法使いは、古い空き家に置き去りにされた本の中身の「あ」という文字を、全部「お」に変えてしまいました。しかし、その本を読む人は誰もいなかったので、誰も困りませんでした。

 あるとき魔法使いは、なんと、空の色を地面の茶色に、地面の色を空の青色に、変えてしまいました。そして、今度こそ皆が困るぞと思って、青い地面に寝っ転がって、楽しみに皆の様子を見ていました。
 皆は、自分が歩いている足元が空のように青くて、見上げた空が土のように茶色いので、まるで身体がさかさまになったような気持ちになって、よろよろ、ふらふら、歩いていました。草や木たちは、今まで大地に根を張ってしっかり生きてきたのに、急に誰かに地面から引っこ抜かれて放り出されたような、頼りない気持ちになっていました。海や川の魚たちは、自分が水面からぴちゃんと跳ねても、眩しい青空が見えずに、まるで上から土が降ってきそうだったので、あまり跳ねないようにしていました。
 そして、土の中で長い間暮らしていたセミの幼虫は、こう思いました。
「私は、自分で気がつかないうちに、土から出て、殻を脱ぎ捨てて、大人のセミになったのだろうか?」
そして、大人になったならセミらしく力いっぱい鳴かなくては、と考えました。

 魔法使いが皆の様子を見てくすくすと笑っていると、魔法使いが寝っ転がっていた青い地面の下から、力いっぱい鳴くセミの声が聞こえました。次には、世界中の地面という地面から、セミの力いっぱいな鳴き声が聞こえてきました。その大騒音は、この世のどんな美しい音も、自分の恋人の甘い愛のささやきも、みんなかき消してしまいました。

 魔法使いは、すべてを元に戻しました。そして、それ以来、魔法を使うのをやめてしまいましたとさ。

コメント

  1. RAIZO より:

    面白かった。
    少し考えさせられる素晴らしい童話?ですね。
    私もいつか童話に挑戦してみたいです。

  2. 久子 より:

    RAIZOさん、コメントありがとうございます。
    面白いと言っていただけるのがいちばん嬉しいですー。
    私は心理描写等々がひどく苦手なのが悩みの種で。
    なので長いものは間がもたなくて、あっさりした(?)こんな感じのものがかえって書きやすいのですよ。(笑)

  3. たぬうさ より:

    アハハハハ。セミねえ。これはやられますとも。余談ですが、セミって7年周期だけかと思いきや、ほかの周期のセミもいるんですって。マンゴーが出てきましたけど、巷でハヤリらしいですね。バナナの木がマンゴーに変わってたら喜ばれたかも。私は両方バナナの方が食べやすいですが。

  4. 久子 より:

    今年はどこぞでアブラゼミが大発生の年だったそうですね。あれは揚げ物をあげる音からアブラゼミという名なのだとか、、暑苦しいなー(笑