子どもと鴨
昔々あるところに、子どもが一人おりました。子どもはある日、怪我をした鴨を見つけて、家に連れて帰り、手当てをしてやりました。おかげで鴨は、すっかり元気になりました。子どもはとても喜んで、鴨に名前をつけ、一日じゅう鴨と一緒に過ごしました。鴨も、子どもが好きになりました。
やがて季節がかわり、鴨は冬を越すために南へ飛んで行かなくてはならなくなりました。鴨は高い空に舞い上がりました。すると子どもはわんわんと大泣きしながら、走って鴨を追いかけてきました。鴨は子どものところに戻って、こう言いました。
「僕はこのままここにいたら、寒さで凍えて死んでしまうんだ。春になったらまたここへ帰ってくるから、だから、僕を南へ行かせておくれ。」
子どもは、大好きな鴨が死んでしまっては大変だと思ったので、わかった、と返事をしました。そして、家の中から、長い長い縄を持ってきて、縄の端を鴨の足に結わえ、もう片方の端を自分が持ちました。子どもは言いました。
「君が迷わずにここに戻ってこれるように、縄をつけてあげるね!」
鴨は足に縄をつけたまま、南へ飛んで行きました。
鴨は何日も南へ向かって飛びました。ところが、途中で足に結わえ付けられた縄が、ぴん、と張って、先へ進めなくなってしまいました。縄はとても長かったけれど、南の国までには少し足りなかったのです。
鴨は仕方なく飛ぶのをやめて地上に降りました。そして、足の縄を外そうと、くちばしで何度もつつきました。でも縄は外れませんでした。
するとそこを、肉屋の男が通りかかりました。そして鴨を見つけると、こりゃあいい肉だ、と言って、捕まえてしまいました。
鴨は一生懸命に肉屋に頼みました。
「お願いです、僕は北の国の子どもに、春になったらきっと帰ると約束してきたのです。この縄がその証です。僕があなたに捕まって死んでしまったら、あの子は悲しみます。どうか、僕を殺さないで!」
肉屋はこれを聞くと、鴨の足の縄を外して言いました。
「そうと知ったら、とてもお前を店で売る気にはなれないよ。この縄は預かってやろう。帰りにまたここに寄りなよ、その足に結わえてやるよ。」
鴨は肉屋にお礼を言うと、南の国へ飛んで行きました。そして冬を越し、春には肉屋に縄を結わえてもらってから、子どものところへ帰りました。子どもは大喜びで鴨を迎えましたとさ。
めでたし、めでたし。
ちょっとポイント不足な気がします。あまり時間をかけられなかったので、と言い訳。
コメント
この間、近所のアイガモ農法やってる田んぼから逃亡者(笑)が出た模様。どうやらときどき逃亡してるらしい。もしかして自分の今後を知っているのか……。
さても三題噺マシンの非情な選択よ。久子さんがめでたしめでたしにまとめた手腕をたたえるのであります。
渡り鳥といえば「雁風呂」という季語があるのをご存知でしょうか。自然科学的にはどうかなという伝承に基づく季語なんですが、なかなか泣かせます。
今回お話の感想にちゃんとなっていないような……いつもすみません。
雁風呂、じんとしますね。こんなちょっとしたことにもわびさびっぽさ(?)をこめずにいられないのだなあ…
こういう静かに心をふるわせるお話がなかなか、というかまったくできない自分がちょっとざんねんであります。
雁が足を休める小枝のことはウイスキーの古いCMで知りましたが、
それで風呂を炊くことまでは知りませんでした。
日本人は風流で優しく細やかですね。
俳句にも雁風呂と言う季語があるようです。
あらゆる事柄にたいして、その背景を想像する心が豊かなんですね。
俳句はTVで楽しみに見ていますが(笑)、季語にもいろんな、はっとするような背景がきっとあるのでしょうね。