おならばなし「みそいちろう」

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みそいちろう

 昔々ある村に、日本一おならのくさい男がいました。名前を、三十一郎(みそいちろう)といいました。
 三十一郎がおならをするのは、一年に一度の大晦日だけでした。大晦日になると三十一郎は、おしりをお天道様に向けて、ボカーンと一発、大砲のようにでっかいおならをして、
「お天道様、今年も一年ぶじに過ごせました、ありがとうございました!」
と挨拶をします。そして三十一郎は、身も心もすっきりして新年を迎えるのです。

 しかし、これでは村の人たちはたまったものではありません。今年も忙しい一年が過ぎ、大晦日が近づいてきました。村人たちは村長の家に集まり、
「今年はどうにかして、三十一郎のおならを嗅がずに済ませたいものだ」
と相談しました。そして、三十一郎に袋の中におならをさせて、その袋の口をぎゅっと閉じて、どこかに捨ててしまおう、ということになりました。

 さっそく皆は袋を用意しました。しかし用意された袋は、布でできていました。村人の一人が言いました。
「布の袋では、布の織り目の隙間から、おならが外へもれてしまいやしないかい。」
そこで村長が試しに、その袋の中におならをしてみることになりました。村長は袋の口をおしりにあてて、目を閉じて、少し顔を赤くしながら、
ブー
とおならをしました。そして急いで袋の口を閉じました。しかし、村人の言った通り、村長のおならは布の織り目の隙間から外にもれてしまいました。皆は鼻をつまんで渋い顔をしています。
「別の袋を、用意しよう」
と、皆は言いました。

 そして今度は、革でできた袋が用意されました。村人は、これなら大丈夫だろう、と言いました。そこでまた村長が試しに、その袋の中におならをしてみることになりました。村長は袋の口をおしりにあてて、目を閉じて、少し顔を赤くしながら、
ブー
とおならをしました。そして急いで袋の口を閉じました。村長のおならは、今度はちゃんと袋の中に納まっているようです。皆はばんざい、ばんざい、と喜びました。

 そしていよいよ大晦日がやってきました。村長と村人たちが、おならの袋を持って、三十一郎の家へやってきました。三十一郎は驚いて言いました。
「こんなに大勢で、何事だい?」
すると村長が、三十一郎に言いました。
「三十一郎よ。私と村人たちから、ひとつおまえに頼みごとがあるのだ。」
神妙な皆の顔を見て、三十一郎は、
「その顔はよほどの困り事だな。俺にできることなら何でもするから、遠慮なく言ってくれ。」
と言いました。それを聞いた村長は、安心して、三十一郎に言いました。
「じつは、おまえのおならのことなんだが。」
三十一郎は笑いながら言いました。
「ああ、俺の屁のことか。」
村長は、そうだそうだと言って、続けました。
「じつはなあ、おまえさんは気付いているかどうか知らないが、おまえさんのそのおならは、わしや村の皆がびっくりして腰を抜かすほど強烈でなあ。」
すると三十一郎は、
「へえ? そいつあ知らなかった。」
と目を丸くしました。そして、
「じゃあ今日は、ちょっとずつ、静かに出すことにしよう」
と言いました。ところが村長は、
「いや、そうではないのだ。びっくりするのは、音ではなくて、においのほうだ。」
と言って、鼻をつまんで見せました。村人たちも皆、鼻をつまんで、眉間にしわをよせました。
すると三十一郎は、
「ということは俺の屁は、みんなが腰を抜かすほど臭いのか?」
と聞きました。皆は、うん、うん、と力いっぱい頷きました。
 三十一郎は、はあ、と大きくため息をつきました。そして、
「そうかあ、そいつは今まで本当にすまなかったなあ。どう詫びていいか、さっぱりわかんねえ。」
と、村の皆に謝りました。そして、すまなそうにこう言いました。
「でも、においは俺にはどうにもできねえよ。かといって出さないでおけば、具合が悪くなっちまうし、どうしたもんかなあ。」
と言いました。
 そこで村長は、そっと例の袋をとり出して、三十一郎の前に差し出しました。そして言いました。
「三十一郎、今日はこの袋の中にボカーンとやってくれ。そして、すぐに口をしっかり閉じて、川に捨ててくれ。そうすればおまえのおならは海まで流れて行ってしまって、めでたしめでたしだ。」
三十一郎は、
「そうか、わかった、そうするよ。」
と返事をしました。村長も村人たちも、ほっとしました。

 そしてすぐに三十一郎は、
「村長さん、この丈夫そうな袋を見たらさっそく、もよおしてきたんだが、今ここでボカンとやってもいいだろうか?」
と、村長に聞きました。村長も村人も、袋があるから大丈夫だとすっかり安心していたので、
「おお、もちろんだ、遠慮なくやってくれ。皆でいい正月を迎えようじゃないか。」
と言って、ニコニコと笑いました。三十一郎は嬉しくなって、
「それじゃ、いくぞ!」
と言うと、袋の口をおしりにあてました。そして思いっきり、
ボガァーン!
とやりました。
 ところが三十一郎のおならの勢いは、丈夫な革の袋をこっぱみじんに破いてしまいました。そしてそのにおいは、油断していた村長と村人たちをあっという間に気絶させてしまいました。三十一郎は、すまなそうに小声でお天道様に挨拶をして、大晦日の行事を終えました。

 そして新年になりました。皆、一年のはじめのうちは、大晦日の出来事を笑って話していましたが、その年も終わりに近づいてくると、しだいにおろおろしはじめました。そしてまた村人たちは村長の家に集まり、
「今年こそはどうにかして、三十一郎のおならを嗅がずにすませたいものだ」
と相談しました。そして、今度は三十一郎に、蔵の中におならをさせて、その蔵の扉をぎっちり閉めて、二度と開けないことにしよう、ということになりました。

 村長と村人たちは、さっそく蔵を造りました。そして大晦日には頑丈な蔵が出来上がりました。村長と村人たちはそろって三十一郎のところへ行きました。そして言いました。
「三十一郎、私たちはおまえのおならのために頑丈な蔵を建てたのだ。今日はその蔵の中にボカーンとやってくれ。そして、すぐに扉をぎっちり閉めてくれ。そうすれば今年こそは、めでたしめでたしだ。」
三十一郎は、
「そうか、わかった、そうするよ。」
と返事をしました。村長も村人たちも、ほっとしました。

 そして三十一郎は、村長と村人に案内されて蔵へやって来ました。すると蔵を見たとたん、三十一郎が、
「村長さん、この立派な蔵を見たらさっそく、もよおしてきたんだが、今ここでボカンとやってもいいだろうか?」
と、村長に聞きました。村長も村人も、蔵の中なら大丈夫だとすっかり安心していたので、
「おお、もちろんだ、遠慮なくやってくれ。皆でいい正月を迎えようじゃないか。」
と言って、ニコニコと笑いました。三十一郎は嬉しくなって、
「それじゃ、いくぞ!」
と言うと、蔵の奥におしりを向けました。そして思いっきり、
ボガァーン!
とやりました。
 ところが三十一郎のおならの勢いは、頑丈な蔵ををこっぱみじんに壊してしまいました。そしてそのにおいは、油断していた村長と村人たちをあっという間に気絶させてしまいました。三十一郎は、すまなそうに小声でお天道様に挨拶をして、大晦日の行事を終えました。

 そして新年になりました。皆、一年のはじめのうちは、大晦日の出来事を笑って話していましたが、その年も終わりに近づいてくると、しだいにおろおろしはじめました。そしてまた村人たちは村長の家に集まり、
「今年こそはどうにかして、三十一郎のおならを嗅がずにすませたいものだ」
と相談しました。そして今度は、できるだけ大きな洞窟を探し出して、その中におならをさせよう、ということになりました。

 村長と村人たちは、さっそく隊を組み、洞窟捜しをはじめました。そして大晦日には、奥まで行くのに十日もかかるというくらいに大きな洞窟が見つかりました。
 村長と村人たちはそろって三十一郎のところへ行きました。そして言いました。
「三十一郎、私たちはおまえのおならのために、大きな洞窟を見つけてきたのだ。今日はその洞窟の中にボカーンとやってくれ。そうすれば今年こそは、めでたしめでたしだ。」
三十一郎は、
「そうか、わかった、そうするよ。」
と返事をしました。村長も村人たちも、ほっとしました。

 そして三十一郎は、村長と村人に案内されて、洞窟にやって来ました。するとその洞窟を見たとたん、三十一郎が、
「村長さん、この素晴らしい洞窟を見たらさっそく、もよおしてきたんだが、今ここでボカンとやってもいいだろうか?」
と、村長に聞きました。村長も村人も、これほどに大きな洞窟なら大丈夫だとすっかり安心していたので、
「おお、もちろんだ、遠慮なくやってくれ。皆でいい正月を迎えようじゃないか。」
と言って、ニコニコと笑いました。三十一郎は嬉しくなって、
「それじゃ、いくぞ!」
と言うと、洞窟の奥におしりを向けました。そして思いっきり、
ボガァーン!
とやりました。

 すると、三十一郎のおならは、洞窟の中をビュンビュン進み、あっという間に洞窟の奥を突き破って、固い土の中をごうごうと掘り進み、やがて遠くの山のてっぺんから、
ボガァーーーン!
と、お天道様に向かって噴き出しました。村長と村人たちは歓声を上げ、大きな拍手をし、涙を流して喜びました。
 三十一郎は嬉しそうに、
「お天道様、今年も一年ぶじに過ごせました、ありがとうございました!」
と挨拶をし、身も心もすっきりして新年を迎えたのだそうです。

 めでたし、めでたし。

しつれいいたしました。 ^^;

コメント

  1. たぬうさ より:

    ブラボー!
    すばらしい小昔話です!
    最初は「三十一郎」?三十路男の話?と、やや年齢的にそのアタリに敏感な私、ケゲンに思っておりましたが(笑。三十一郎が三十路かどうかなんてどこにも書いてない)、まあおもしろいこと、おもしろいこと。続きが気になって、あっという間に読み干して(?読むと飲み干してとの造語)しまいました。
    こちらのブログに掲載なさっている作品をまだ全て読んでいないのでわかりませんが、既読の中ではおもしろさ№1!
    この面白さを伝えに行くところがないので、とりあえず、手じかにある袋にでも叫んどきましょうか。ボガァーーーン!

  2. 久子 より:

    わーい、ありがとうございますー
    こんなふうなのを次々に書けたら楽しく生きていけると思うのだけど(?)、そううまくはいかないのであります…
    しかし若い頃は少々の恥じらいも持ち合わせていたはずなのに、いつしかこんな話を大まじめに発表してへっちゃらになっているというのは、、
    これ以上は、言うまい…