「家に帰る椅子」

軽業師のときのようにあわててここに書いてあとで訂正稿にならないように(笑)、書いたものを少し寝かせておきました。
…そこで服の事を考え始めてしまったので予定より長く寝かせる事になってしまいましたとさ、、しょーもない、、
さっき二週間と三日ぶりに読み返し、直しを入れました。

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家に帰る椅子

 昔々、ある春の日、お婆さんが家に向かって歩いていました。お婆さんは荷物を背負っていました。荷物はとても重かったので、お婆さんはすっかり疲れてしまいました。お婆さんは言いました。
「もうヘトヘトで一歩も歩けやしない、どこかに座って休みたいわ」

 するとちょうどその道ばたに、たいそう立派な椅子が置いてありました。お婆さんは荷物を背中から下ろして椅子に置き、自分も椅子に腰かけました。椅子はとても座り心地が良くて、お婆さんはとても良い気分になりました。
 身体が少しらくになると、お婆さんはポケットからパンを取り出して食べ始めました。お婆さんはおなかもペコペコだったのです。お婆さんは美味しそうに、モシャモシャとパンを食べました。パンくずが一つ、椅子の上に落ちましたが、お婆さんはそれには気付きませんでした。

 そのとき、お婆さんのすぐ足元を、アリが食べ物をさがして歩いていました。アリはお婆さんが落としたパンくずの匂いを嗅ぎつけました。そして、そのパンくずを目指して、椅子の上に登ってきました。そしてパンくずを見つけると、がっつりとそれをくわえました。そして、
「これを巣に持って帰れば、今日は家族みんなで美味しい夕飯がたべられるぞ!」
と思って喜びました。

 ところが、そのときちょうどパンを食べ終わったお婆さんが、ふう、と一息つきました。そして、のんびりとこう言いました。
「ああ、こうして座ったまま家まで帰れたら、私はどんなに助かるかしら…」
 するとなんと、椅子が、お婆さんとお婆さんの荷物とアリとパンくずを乗せたまま、ふわり、と浮かび上がりました。そして、おばあさんの家に向かってゆっくりと動き出しました。
 お婆さんはびっくりして、椅子の上で腰を抜かしそうになりました。でも、すぐにこの素晴らしい出来事をたいそう喜びました。なにしろ、このまま椅子に座っていれば家に帰れるのですから!
 お婆さんは、まるで小馬の背中に乗って散歩をするように、この椅子の上の散歩を楽しみました。爽やかな風がお婆さんの頬をなでました。花の匂いが、お婆さんの心をうきうきさせました。
 やがて、お婆さんの家が見えてきました。お婆さんの家には大きな木がありました。椅子はお婆さんの家に着くと、木の陰に静かに着地しました。
 お婆さんは椅子から降りると、椅子に向かってお礼を言いました。そして、ポンポンと優しく椅子に触りました。それから荷物を持って、家に入って行きました。

 椅子の上にはまだアリがいました。アリもパンくずをくわえたまま地面に降りて行きました。しかし、いったいこのパンくずをどこへ持って行ったら良いのかわかりませんでした。ここがどこなのかもわからないし、自分の巣もありません。
 アリは仕方なく、椅子のそばの地面に穴を掘って、新しい巣を作りました。そして巣ができると、パンくずを巣の中に運び込みました。そして、その日はひとりでそのパンくずを食べて、眠りました。

 やがて、夏になりました。お婆さんはときどき、その椅子に腰かけて夕涼みをしたり、昼寝をしたりしました。アリは、今も椅子のそばの新しい巣にひとりで暮らしていました。
 ある日お婆さんは、涼しい木陰の椅子に座ってお昼ご飯を食べようと思いました。そして、美味しいサンドイッチをこしらえて、美味しいお茶を入れました。それから椅子にゆったりと腰かけて、あの春の日のように、美味しそうにモシャモシャとサンドイッチを食べ始めました。
 すると、あの春の日のように、パンくずが一つ、椅子の上に落ちました。しかしお婆さんはそれには気付きませんでした。そしてお昼ご飯を食べ終わったお婆さんは、少しうたた寝をしてから、家の中に入って行きました。

 お婆さんが家に入った後、アリはパンくずの匂いを嗅ぎつけて、巣から出てきました。そしてパンくず目指して椅子に登ってきました。それから、パンくずをがっつりとくわえました。そうして、ふと、あの春の日のことを思い出して、そして言いました。
「ああ、これをあの懐かしい巣に持って帰れば、今日は家族みんなで美味しい夕飯がたべられるのに…」

 すると、椅子が、アリとパンくずを乗せたまま、ふわり、と浮かび上がりました。そして、アリの懐かしい巣に向かってゆっくりと動き出しました。
 アリはびっくりして、椅子の上で腰を抜かしそうになりました。でもすぐにこの素晴らしい出来事を心から喜びました。なにしろ、あの懐かしい巣に帰れるのですから!

 アリは、まるで小馬の背中に乗って散歩をするように、この椅子の上の散歩を楽しみました。涼しい風がアリの身体をなでました。緑の匂いが、アリの心をうきうきさせました。
 やがて、懐かしい景色が見えてきました。椅子はアリの巣に着くと、入り口のそばに静かに着地しました。
 アリはパンくずをくわえて椅子から降りました。そして、椅子にお礼を言うと、パンくずを持って、嬉しそうに巣に入って行きました。
 懐かしい巣の中では、アリの家族が、帰ってきたアリを大喜びで迎えました。そしてその日は家族みんなで美味しい夕飯を食べました。
 アリは家族に、今までの出来事を話して聞かせました。そして、帰って来れたことをもう一度喜んで、それからみんなに「けっして椅子の上に登ってはいけないよ」と、重々しく言いました。

 それから三日が過ぎました。お婆さんの家からアリを乗せてきたあの椅子はまだそこにありました。

 しかし、ちょうどそこを通りかかった旅人が、歩き疲れたのでひと休みしようと思い、その椅子に腰かけました。その椅子はとても座り心地が良かったので、旅人はつい、懐かしい家でくつろいだときのことを思い出しました。
 すると、椅子はふわりと浮かび上がり、アリの巣からゆっくり離れました。そして、驚いて腰を抜かしている旅人を乗せたまま、旅人が苦労して歩いて来た道を戻って行きました。
 そしてついに椅子は、旅人の家に旅人を送り届けてしまいました。旅人の家族は皆喜んで彼を迎えましたが、しかし、かわいそうに、旅人は旅のやり直しです。旅人はまた家を出発することになりました。
 でも旅人は、こっそり、椅子にお礼を言ったのだそうですよ。「懐かしい家族に会わせてくれてありがとう」って。

 きっとあの椅子は、今もどこかで、誰かを家に送り届けていることでしょう。めでたし、めでたし。

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