「軽業師」第二稿

第二稿ができました。

軽業師・第二稿

 昔々あるところに、とても身軽な男の子がいました。男の子は、世界一の軽業師になりたいと思っていました。だから、暇さえあれば、いつもピョンピョン、椅子を跳び越えたり、テーブルを跳び越えたり、家の屋根の上から宙返りで跳び降りたりしていました。
 他の子どもがまねをして、椅子や犬小屋を跳び越えようとしたり、屋根から跳び降りたりしましたが、だれもうまくまねできずに、みんな大怪我をしてしまいました。

 男の子はいつも学校を抜け出して、町でいろんなものを跳び越えたり宙返りしたりしていました。見つかって学校に連れ戻されても、またすぐに抜け出してしまうのでした。
 他の子どもは学校でたくさんの字を覚えましたが、男の子はいつまでたっても字を覚えませんでした。ある日、とうとう堪忍袋の緒を切らせたお父さんが、男の子をうんと叱りつけました。そして「今度学校を抜け出したら家には入れないぞ!」と言いました。男の子はしょんぼりして「はい」と返事をしました。そして学校へ行きました。
 しかし、男の子はお父さんの言ったことを忘れて、この日も学校を抜け出してしまいました。そして町の屋根から屋根をピョンピョンと跳び移って、夢中で遊んでいました。

 やがてお昼の鐘がなりました。男の子はふいに、お父さんのことを思い出しました。そして跳ぶのをやめました。
「そうだ、ぼくはもう家に入れてもらえないんだ」
と男の子は言いました。そしてがっくりして、そこに座り込んで、しくしくと泣きべそをかきました。
 でももう、どうしようもありません。男の子は、言いました。
「僕は、今から、世界一の軽業師になりに行く!」
そして男の子は、目に少し涙をためたまま屋根から降りて、家や学校とは反対の方向に歩き出しました。

 男の子はどんどん歩いて行きました。たくさん建っていた家がまばらになってゆき、やがてまわりはただの野っ原になりました。野っ原の中の一本道を、男の子は歩いて行きました。
 すると、道の途中に立て札が立っていました。立て札には大きな文字で「試験」と書いてありましたが、男の子はそれを読めませんでした。
 立て札のそばには大きな跳び箱があって、そのそばには、うんと背が高い人と、うんと背が低い人が、話をしていました。
 背の高い人が、言いました。
「跳び箱があるんだから、これを跳べばいいんだろう?」
すると背の低い人は、
「この跳び箱は俺の背よりも高いから、俺には跳べっこないよ」
と言って、どこかへ行ってしまいました。

 男の子は、残った背の高い人を見ていました。すると背の高い人は、男の子を見てニコッと笑うと、跳び箱から少し離れたところまで歩いて行きました。
 そしてこちらに向き直ると、跳び箱に向かってタッタッタッと走って来て、踏み板をポンと踏び、軽々と跳び箱を跳び越えました。そして見事なポーズで着地をして、得意そうに目をキラキラさせました。

 男の子はじっとしていられませんでした。そして自分も、跳び箱からうんと遠くまで行って、そこから張り切って跳び箱に向かってタタタタタタタと走ってきました。そして踏み板をポンと踏むと、くるくると宙返りをしながら高く高く跳び上がり、ゆっくりと雲をかすめるほど高く跳んでから、跳び箱の向こうにストンと着地しました。
 男の子はばっちりポーズを決めて、顔中をキラキラさせました。男の子はすっかり満足していました。

 するとなんと、今男の子がかすめた雲の上から、白髪のおじいさんがあらわれました。男の子は腰を抜かさんばかりに驚き、背の高い人は本当に腰を抜かしてしまいました。
 おじいさんは楽しそうにニコニコしながら男の子のそばに降りてきました。そして男の子に言いました。
「わしは、軽業師の試験の試験官だ。おまえは試験に合格した。今からわしの弟子になって、世界一の軽業師になる修業をしなさい」
 男の子は嬉しくて、さっきまで泣きべそをかいていたのも忘れてしまいました。そして喜んでこのおじいさんの弟子になりました。

 何年かが過ぎて、とても熱心に軽業師の修業を積んだ男の子は、立派な軽業師になっていました。今ではもう、雲よりも高く、国じゅう全部を見渡せるくらいに高くジャンプをすることができるようになっていました。おじいさんはもう何も教える事がなくなってしまいました。しかしおじいさんはまだ、男の子に、お前は世界一の軽業師だとは言いませんでした。

 そしてある日、事件が起きました。この国の王さまが飼っていた三毛猫のミーちゃんが、お城からいなくなったのです。王さまはすっかり取り乱して、国じゅうにおふれを出しました。
「三毛猫のミーちゃんを見つけた者には、何でも好きなものを褒美にさずける」
 これを知った国じゅうの人たちが、懸命になって三毛猫のミーちゃんを捜しました。物陰や屋根裏や、干し草の中や食料倉庫の中も捜しました。またたびを持って茂みの中を捜しているおばさんや、夜暗くなってから、闇夜に光る猫の目を捜している女の人もいました。しかし三毛猫のミーちゃんはなかなか見つかりませんでした。

 男の子も、三毛猫のミーちゃんを捜すことにしました。男の子は国のちょうどまん中へやって来ました。そして、すうっと息を吸い込むと、ポーンと雲よりも高くジャンプをしました。そしてゆっくりと、国じゅうの端っこから端っこまで見渡しました。
 すると、国のいちばん端っこの小さな海岸に、三毛猫のミーちゃんを見つけました。ミーちゃんは心細そうに鳴いていました。ミーちゃんは城の外に出て迷子になり、この小さな海岸に辿り着いていたのです。
 男の子はもう一度ジャンプをして、ミーちゃんのいる海岸へ跳んで行きました。そしてミーちゃんを抱きかかえると、またジャンプをしてお城の近くに戻ってきました。
 ミーちゃんはわけがわからずに、目をまんまるにしたまま固まっていました。でも、お城に戻って来た事がわかるとすぐに元気を取り戻し、男の子の腕から跳び降りて王さまのところへ駆けて行きました。

 王さまはとてもとても喜んで、ミーちゃんの小さな頭や咽をなでました。ミーちゃんは咽をゴロゴロいわせて、それから小さくミャアと鳴いて、王さまに何か囁きました。王さまは男の子に言いました。
「よくミーちゃんを見つけてくれた。褒美に好きなものをやろう。遠慮せずに何でも言いなさい」

 するとそのときです。その様子を見ていたずるそうな男が「待ってください!」と叫びました。この男は、誰かが褒美をもらいに来たら自分が横取りしてやろうとたくらんで、ずっとお城に隠れていたのです。男は言いました。
「ミーちゃんを見つけたのは私です! その子どもは、私からミーちゃんを横取りしたのです。だから、その子どもは泥棒の罪で牢屋へ入れるべきです!」
 しかし王さまは、この男の嘘がすぐにわかりました。ミーちゃんも、この男を見てうなり声をあげていました。
 王さまは、このずるそうな男を懲らしめてやることにしました。王さまはゆっくり言いました。
「私はついさっきまで、城のバルコニーから外を見ていた。そのとき遠くのほうに、三毛猫のミーちゃんを抱えて空を跳びはねている人を見たのだ。あんな事ができるのはよほどすぐれた軽業師に違いない。だから二人に、軽業競べをしてもらうことにしよう!」

 そして王さまは、家来にステーキ肉を用意するよう命令しました。すぐに二人の前には、美味しそうなステーキ肉が運ばれて来ました。王さまは言いました。
「これから二人に肉を焼いてもらう。しかしただ焼くのではだめだ。太陽までジャンプして行って、太陽の炎で、最高に美味しく肉を焼いてきた者に、褒美を与えることにする!」

 ずるそうな男は困ってしまいました。太陽に行くなんてできるはずがありません。しかし、褒美をもらうためには、何としても自分が子どもより美味しく肉を焼いて持って来なければならないのです。
 男は大汗をかきながら、しどろもどろに言いました。
「ではまず私がこの肉を、素晴らしく美味しく焼いてきてご覧に入れます。しかし太陽まで行くのには、よく跳べるトランポリンが必要です。どうか、よく跳べるトランポリンを用意してください」
 そして、男はトランポリンでジャンプして、汗と一緒にどこかに跳んで行きました。そして誰もいない建物の陰にどすんと着地すると、急いで町のレストランへ走って行き、腕のいいコックに無理矢理頼んで肉を焼いてもらい、それを持って急いで走って帰ってきました。
 王さまの前に用意された二枚の白いお皿の一枚に、腕のいいコックが焼いた肉が乗せられました。

 次は男の子の番でした。男の子はトランポリンには見向きもしませんでした。
 男の子はステーキ肉をしっかり掴むと、タタッと軽く助走をつけてから、タンッと地面を強く踏み切って、ポーンと高く跳び上がりました。そしてそのまま雲を突き抜けて、月も星もおいこして、ぐんぐん太陽に近づいていきました。
 そして太陽のすぐそばまで来ると、ステーキ肉を両手でしっかりと太陽の炎にかざしました。肉はすぐにじゅうじゅうと音を立て、いい匂いをさせながら美味しそうに焼き上がりました。そのいい匂いに男の子はすっかり嬉しくなって、くるくると宙返りをしながら戻ってきました。
 王さまの前のもう一枚の白いお皿には、太陽の炎で焼かれた美味しそうな肉が乗せられました。

 王さまはさっそく、二枚の肉を食べ比べました。コックの焼いた肉も美味しかったのですが、男の子が太陽の炎で焼いてきた肉は、本当に、王さまが今までに食べたことがないくらいに美味しく焼けていました。王さまは、この最高に美味しい肉を切り分けると、三毛猫のミーちゃんにも一切れ食べさせてやりました。ミーちゃんは夢中でそれを食べました。そして王さまに、もっとちょうだいという仕草をしました。
 王さまは男の子に言いました。
「子どもよ、ミーちゃんを見つけてくれた軽業師はお前だ。さあ、褒美は何がいいかね?」

 男の子は王さまからたくさんの褒美をもらいました。ミーちゃんはステーキを一切れ分けてくれました。そして、ずるそうな男は嘘がばれて牢屋に入れられ、死ぬまでそこで暮らすことになりました。

 男の子がお城から帰ると、おじいさんは言いました。
「お前は立派な世界一の軽業師だ。お前に敵う者はもうどこにもいないよ、たいしたものだ!」
 男の子はそれからも、あいかわらずピョンピョン跳びはねながら、一生幸せに暮らしました。

 めでたし、めでたし。

余裕のなかった第一稿にくらべると、いつもの自分の調子に戻っている感じがします。
自分では良くなったと思っているけど、はたして、、?

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