「軽業師」第一稿

日曜日にとなえながら帰宅した「跳び箱を…」ができました。

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軽業師・第一稿

 昔々あるところに、ひとりの男の子がいました。男の子は誰よりも身軽でした。いつもピョンピョンと何かを跳び越えたり、屋根に登っては宙返りで跳び降りたりしていました。
 他の子どもがまねをして、椅子や犬小屋を跳び越えようとしたり、屋根から跳び降りたりしましたが、だれもうまくまねできずに、みんな大怪我をしてしまいました。

 男の子は、世界一の軽業師になりたいと思っていました。そして暇さえあればいつもピョンピョンとやっていました。
 学校で他の子が字を覚えているときも、男の子は学校を抜け出して、町でいろんなものを跳び越えたり宙返りしたりしていました。見つかって学校に連れ戻されても、またすぐに抜け出して、どこかでピョンピョンやっているのでした。
 そんなふうでしたから、男の子はいつまでたっても字を覚えませんでした。

 そしてある日、とうとう堪忍袋の緒を切らせたお父さんが、男の子をうんと叱りつけました。そして「今度学校を抜け出したら家には入れないぞ!」と言いました。男の子はしょんぼりして「はい」と返事をしました。そして学校へ行きました。
 しかし、男の子はこの日も、外の景色を眺めているうちにじっとしていられなくなって、お父さんの言ったことも忘れて、学校を抜け出してしまいました。そして町の家々の、屋根から屋根をピョンピョンと跳び移って、夢中で遊んでいました。

 そうやって遊んでいるうちに、お昼になりました。男の子はおなかがすいて跳ぶのをやめました。そして、お父さんの言ったことを思い出しました。
「そうだ、ぼくはもう家に入れてもらえないんだ」
と男の子は言いました。そして、泣きべそをかきました。でもしばらくすると、言いました。
「それなら僕は、今から、世界一の軽業師になりに行く!」
そして男の子は、目に少し涙をためたまま、家や学校とは反対の方向に歩き出しました。
 男の子はどんどん歩いて行きました。たくさん建っていた家がまばらになってゆき、やがてまわりはただの野っ原になりました。野っ原の中の一本道を、男の子は歩いて行きました。

 すると、道の途中に、立て札が立っていて、大きな跳び箱が置いてありました。立て札には「試験」と大きな文字で書いてありましたが、男の子はそれを読めませんでした。そのそばには、うんと背が高い人と、うんと背が低い人がいました。
 背の高い人が、言いました。
「跳び箱があるっていうことは、これを跳べばいいんだろう?」
すると背の低い人が、言いました。
「でもこの跳び箱は俺の背よりも高いぞ、俺には跳べないよ」
そして背の低い人は、跳び箱を跳ぼうともせずに、どこかへ行ってしまいました。
 背の高い人は、少し遠くから跳び箱に向かって走ってくると、踏み板をポンと踏んで、軽々と跳び箱を跳び越え、見事なポーズで着地をしました。

 それを見ていた男の子は、わくわくして、自分も跳び箱を跳びたくてたまらなくなりました。そして、うんと遠くまで行ってから、張り切って跳び箱に向かって走ってきました。そして踏み板をポンと踏むと、くるくると宙返りをしながら高く高く跳び上がり、雲をかすめるほど高く跳んでから、跳び箱の向こうに着地しました。男の子はばっちりポーズを決めて、すっかり満足していました。

 するとなんと、今男の子がかすめた雲の上から、白髪のおじいさんがあらわれて、男の子のそばに降りてきました。白髪のおじいさんは男の子に言いました。
「わしは、軽業師の試験の試験官だ。おまえは試験に合格した。今からわしの弟子になって、世界一の軽業師になる修業をしなさい」
 男の子はびっくりして、さっきまで泣きべそをかいていたのも忘れてしまいました。そして喜んでこのおじいさんの弟子になって、とても熱心に軽業師の修業を積みました。

 何年かが過ぎて、男の子は立派な軽業師になっていました。今ではもう、雲よりも高く、国じゅう全部を見渡せるくらいに高くジャンプをすることができるようになっていました。ですからもう、おじいさんは男の子に教える事がなくなってしまいました。しかしおじいさんはまだ、男の子が世界一の軽業師だとは言いませんでした。

 そしてある日、事件が起きました。この国の王さまが飼っていた三毛猫のミーちゃんが、お城からいなくなったのです。王さまはすっかり取り乱して、国じゅうにおふれを出しました。
「三毛猫のミーちゃんを見つけた者には、何でも好きなものを褒美にさずける」
 これを知った国じゅうの人たちが、懸命になって三毛猫のミーちゃんを捜しました。物陰や屋根裏や、干し草の中や食料倉庫の中も捜しました。またたびを持って茂みの中を捜しているおばさんや、夜暗くなってから、闇夜に光る猫の目を捜している女の人もいました。しかし三毛猫のミーちゃんはなかなか見つかりませんでした。

 男の子も、三毛猫のミーちゃんを捜すことにしました。そして、国のちょうどまん中へやって来ると、ポォーンと雲よりも高くジャンプをしました。そして国じゅうの端っこから端っこまで見渡しました。すると、国のいちばん端っこの小さな海岸に、三毛猫のミーちゃんがいました。ミーちゃんは心細そうに鳴いていました。ミーちゃんは城の外に出て迷子になり、この小さな海岸に辿り着いていたのです。
 男の子はもう一度ジャンプをして、ミーちゃんのいる海岸へ跳んで行きました。そしてミーちゃんを抱きかかえると、またジャンプをして戻ってきました。
 そして男の子はミーちゃんを連れてお城へ行きました。王さまはとても喜んで、ミーちゃんの頭や咽をなでました。ミーちゃんは小さく鳴いて、王さまに何かささやいたように見えました。王さまは男の子に言いました。
「よくミーちゃんを見つけてくれた。お礼に何でも好きなものをやろう。遠慮せずに何でも言いなさい」

 するとそのとき、その様子を見ていた見物人の中から「待ってください!」と声がしました。そこには、ずるそうな男がいました。ずるそうな男は、なんとかして自分が褒美をもらいたいと思っていました。ずるそうな男は、王さまに嘘を言いました。
「ミーちゃんは私が見つけたのです。その子どもは、私からミーちゃんを横取りしたのです。だから、その子どもは泥棒の罪で牢屋へ入れるべきです!」
 しかし王さまは、このずるそうな男が嘘を言っていることがすぐにわかりました。ミーちゃんも、この男を見てうなり声をあげていました。そこで王さまは、このずるそうな男を懲らしめてやることにしました。そして言いました。
「私はついさっきまで、城のバルコニーから、ミーちゃんを捜すために外を見ていたのだ。そのときに、遠くのほうに人が見えた。遠くて顔は見えなかったが、その人は、たしかに三毛猫のミーちゃんを抱えて空を跳びはねていた。あんな事ができるのはよほどすぐれた軽業師に違いない。だから、二人に軽業競べをしてもらうことにしよう!」

 そして二人に、分厚いステーキ肉が一枚ずつ渡されました。王さまは言いました。
「これから二人に肉を焼いてきてもらう。しかしただ焼くのではだめだ。太陽までジャンプして行って、太陽の炎で、最高に美味しく肉を焼いてきた者に、褒美を与えることにする!」

 ずるそうな男は困りました。太陽に行くなんてできるはずがありません。しかし、自分が褒美をもらうには、何としても自分が子どもより美味しく肉を焼いて持って来なければならないのです。
 ずるそうな男は王さまに言いました。
「ではまず私がこの肉を、素晴らしく美味しく焼いてきてご覧に入れます。しかし太陽まで行くのにはトランポリンが必要です。どうかトランポリンを用意してください」
 そしてトランポリンが用意されると、ずるそうな男はトランポリンに乗って、ボヨンボヨンと重そうにジャンプしてどこかに跳んで行きました。そして誰もいない建物の陰にどすんと着地すると、急いで町のレストランへ走って行きました。そして腕のいいコックに無理矢理頼んで肉を焼いてもらうと、それを持って急いで走って帰ってきました。
 王さまの前に用意された二枚の白いお皿の一枚に、腕のいいコックが焼いてくれた肉が乗せられました。
 
 次は男の子の番でした。男の子はトランポリンには見向きもしませんでした。
 男の子は肉をしっかり掴むと、「はーっ!」と掛け声をかけながら地面を強く踏み切って、ぐんぐん高く跳び上がりました。そして雲を突き抜けて、ぐんぐん太陽に近づいていきました。
 そして太陽のすぐそばまで来ると、男の子は持っていた肉を太陽の炎にかざしました。肉はすぐにじゅうじゅうと音を立て、いい匂いをさせて、美味しそうに焼き上がりました。男の子はくるくると宙返りをしながら肉を持って戻ってきました。
 王さまの前のもう一枚の白いお皿には、太陽の炎で焼かれた美味しそうな肉が乗せられました。

 王さまはさっそく、二枚の肉を食べ比べました。コックの焼いた肉も美味しかったのですが、男の子が太陽の炎で焼いた肉は、本当に、王さまが今までに食べたことがないくらいに美味しく焼けていたのです。王さまは、この最高に美味しい肉を切り分けると、三毛猫のミーちゃんにも一切れ食べさせてやりました。そして男の子に言いました。
「子どもよ、ミーちゃんを見つけてくれた軽業師はお前だ。さあ、お礼は何がいいかね?」

 男の子は王さまからたくさんの褒美をもらいました。そして、ずるそうな男は嘘がばれて牢屋に入れられました。
 男の子はお城から帰ると、ついにおじいさんからも、「お前は世界一の軽業師だ」と言ってもらうことができました。こうして男の子は、あいかわらずピョンピョン跳びはねながら、一生幸せに暮らしました。
 めでたし、めでたし。

作り方のまとめに飽きてきて、息抜きのつもりで久しぶりにお話を作ったのですが、ぜんぜん息が抜けませんでした。
ヘトヘトです。(笑

コメント

  1. のこ より:

    思いがけない展開だったなあ
    猫のミーちゃん救出に持っていくなんて~!!
    久し振りの 久子さんのお話だったので一気に読んじゃいましたよ
    でも また2回3回と読ませて頂きます そうするとイメージがどんどん膨らんで お話がだんだん挿絵のある絵本に変わっていくんですよねえ この作業が大好きです!
    先日の鎮痛剤の件 メールしようしようと 思いながらなかなか出来ず ごめんちゃいね
    心配しないでねー。
    昨日今日とサイトお休み中 背中懲りすぎて PCタイム激減でございます

  2. 久子 より:

    のこさん、コメントありがとうー。
    何度も読んでくださっているんですね!
    そうそう、読者さんの頭の中に妙な(?)世界ができあがっていくのは、作者の快感でもあるかもしれないです(笑
    背中もお身体もお大事にしてくださいね。
    どうもありがとう、気長にお待ちいたします。