【作品】「ひなたむし」

三つ書いたお話、どれから読んでもらおうかなと少し考えまして…
ひとつは「黒雲に乗ったさるがみ」。手術日を挟んで三日ほどで書きました。はじめにあまり具体的なイメージがなくて、書きながらあっちを直しこっちを直しそっちを変更等々、しまいには登場人物をお爺さんからお兄さんに変えるなど、苦労してなんとか形になりましたという作品です。
他の二つは「ひなたむし」「とかげのしっぽ」。
「ひなたむし」は、「黒雲に…」を書き終わったもののあまりすっきりしなくて、病室に入る日ざしをぼやっと眺めていて思いついたもので、書きながら大した苦労もなくまとまりました。
「とかげのしっぽ」はまた別の日に、曇り空を眺めていて思いついたもので、これも言葉遊びみたいなところに自分でくすくすしながら、すっとまとまりました。

自分が好きなお話から読んでいただくことにします。ということで今日は「ひなたむし」を。

ひなたむし

昔々あるところに、高い塔がありました。その塔のてっぺんの小さな部屋には、窓があって、いつも明るい日がさしていました。そのひなたにはいつも、ひなたむしがいました。
ひなたむしは、ひなたにいるときはいつも元気でした。そして夜になって日がささなくなると、ひなたむしは力が抜けて眠ってしまいます。
今日も、昼間はひなたで元気にしていたひなたむしは、夕方になって明るい日が夕日に変わると、目をとろんとさせました。そして日が沈んで暗くなると、とろとろと眠ってしまいました。

ひなたむしがすっかり眠ってしまったある夜、この高い塔のてっぺんのひなたむしのいる小さな部屋に、ひとりの泥棒が入りこみました。泥棒は、ランプの灯で部屋のあちこちを照らして、何か盗むものはないかと探しました。そして、眠っているひなたむしを見つけました。この部屋には、ひなたむしの他は誰もいないし、何もありませんでした。
泥棒は、つまらなそうに言いました。
「ちえっ。てっきり宝物が隠してあると思ったのに、部屋の中にはちっぽけな虫が一匹いるだけか。こんなつまらないものを盗んでは、俺様の名前が汚れるぜ!」
そして、ひなたむしをポンとけとばして、部屋の隅に転がして、さっさと帰ってしまいました。

次の朝、朝日が昇って、塔のてっぺんのひなたむしのいる部屋にもまた明るい日がさしました。しかし、ひなたむしがゆうべ泥棒にけとばされて転がされた部屋の隅には、日が当たりませんでした。そんなわけでひなたむしは、とろとろと眠ったままでした。
そしてそのまま、長い時間が過ぎました。

そして、また別の、ある夜のことです。あのときひなたむしをけとばした泥棒が、またこの部屋に忍び込んできました。今度は泥棒は、宝物をたくさん持っていました。泥棒は盗んだ宝物を、誰もいないこの部屋に隠すことにしたのです。
泥棒は、ランプの灯で部屋を照らすと言いました。
「しめしめ。この部屋はあいかわらずからっぽだ。きっと誰のものでもないに違いない。誰のものでもないなら、この俺様が宝物を隠しておいたって、誰にも見つかりゃしないよな。さすが俺様、ツイてるぜ!」
そして泥棒は、部屋のまん中にたくさんの宝石や金貨をどっさり置きました。そして、いそいそと帰って行きました。

次の朝、朝日が昇って、塔のてっぺんのひなたむしのいる部屋にもまた明るい日がさしました。そして、ゆうべ泥棒が置いていったたくさんの宝石や金貨にも日ざしが当たって、きらきらと眩しく光り輝きました。そしてその眩しい光は、部屋の隅のひなたむしのところにも届きました。
ひなたむしは、久しぶりの日ざしをとても眩しく感じました。そして「これはきっと自分が長い間眠っていたせいだ」と思いました。でもそれは、泥棒が部屋のまん中に置いていった宝石や金貨が、きらきらと、目を開けていられないほどに眩しく光り輝いていたせいでした。
その眩しい日ざしをあびて、ひなたむしは、ぐんぐん元気になりました。そして、以前にひなたで過ごしていたときよりも、もっともっと元気になりました。
ひなたむしは、背中をむずむずと動かしました。すると、ひなたむしの背中から、宝石のようにきれいな羽が生えました。ひなたむしは、そのきれいな羽を羽ばたかせて、ふわりと浮かび上がりました。そして、塔のてっぺんの小さな部屋の小さな窓から、外へ飛んで行きました。
そして、ひなたむしはもう二度と、この部屋には戻ってきませんでしたとさ。

めでたし、めでたし。

おそまつさまでした…(笑

* * *

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この記事を書いた人
たまに、加賀 一
そだ ひさこ

子ども時代はもちろん、大人になっても昔話好き。
不調で落ち込んでいた30代のある日。記憶の底から突如、子ども時代に読んだ昔話の場面がよみがえる。その不思議さに心を奪われて、一瞬不調であることを忘れた。自分は昔話で元気が出るんだと気づいた。

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コメント

  1. りぶ より:

    久子さんー
    このお話好き!!
    何かひなたむしの背中に生えてきたはねが見えるようです。
    ひなたむしって久子さんに似てない??笑

  2. 久子 より:

    わ、わたしは虫に似ていますかぁ(笑
    するっと出てきたお話のほうが苦労して組み立てたものよりも自分の中にすとんと収まるというか、そんな感じがしますねー。
    ご感想ありがとう、嬉しいですー♪

  3. のこ より:

    久子さん おかえりなさい
    最初ね ひなたむしの設定(?)を芋虫みたいなのにしてたんだけど 泥棒に蹴られて転がる・・・んん ってことはだんご虫みたいな・・・と訂正
    最後に羽が生えちゃって はっ やっぱり最初の芋虫に設定しなおし・・・ながい事寝ている間っていうのは きっとサナギだったんだ そんで目覚めて羽化して飛んでったんだ・・・とひとり頭の中で お話を絵本化して楽しんでいました。
    しかしなあ もう戻ってこないんだね(笑)

  4. 久子 より:

    のこさんただいまー
    ひなたむしがのこさんを悩ませたみたいで(笑)ごめんね
    私のイメージは足が六本でちょっと丸っこくて、色のないテントウムシみたいな?…絵に描いたような「ムシ」でありました。ふふ、やっぱりひとの感想を聞かせてもらうのは面白いですにゃー。
    あの部屋はきっと今も宝石だらけですな。

  5. たぬうさ より:

    結末もいいんだけど、「ひなたむし」がどんな虫かという最初の部分が好きです。
    なんとなく、中国の怪異譚とか神仙譚ふうの終わり方のような印象を受けました。ひなたむしがどうなったか?、あの部屋がどうなったか?、泥棒は?とその後について考えてしまうのですが、中国のお話だと、どうなったの?があんまり重視されてないようなのがあるんですね。小昔話とはちょっと違うんだけれども、そこのところを追究しないで「ひなたむし」はきれいな羽が生えて飛んでったんだよーという事実で終わっていていいんだと思います。
    でも、もし「ひなたむし」がベランダに干してるお布団の上で日向ぼっこしてたら、久子さんに報告しますね。

  6. 久子 より:

    たぬうささん、ご感想ありがとうございます。
    こんな感じのお話って私好きなのですが、一生懸命作ろうとしてもできないのですよ。日向を眺めていて浮かんできて、書き留めて、ラストのあたりは白黒はっきりしたいさぎよい絵柄のマンガのコマで見えて来るようでした。色がつくとしたら宝石(と羽)だけ、の。
    ベランダできれいな羽のひなたむしを見つけたら、ぜひ教えてくださいね。

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