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役割

 昔話の登場人物にはリアルな背景がないので、誰が誰と接触することも可能です。極端な事を言えば、ある昔話の登場人物をそっくり別の人物に入れ変えても話が成り立つかもしれません。

 しかし、昔話の登場人物にはその立場に対して、はっきりと役目が与えられています。
■主人公の役目は『筋を進めるための行動をとること』です。
 具体的には
 『目的に向かって出発する』『贈り物を必ず手に入れる』
 『目的に到着する』

 です。

 主人公の役目で必要不可欠な二つは、『目的に向かって出発する』と『目的に到着する』です。
 前者は多くの場合「旅に出る」「継母にいじめられる」など「片付けなければならないこと」が見つかった状態です。
 後者は「結婚する」「国王になる」など、「片付いた」状態です。

 『贈り物を必ず手に入れる』は筋によって現れます。
 【主人公が目的を果たすためにはある道具が必要になる、その道具はこれから出会う不思議な人物が持っている。その人物は主人公に謎をかけるが、うまく謎に答えられなければその道具は主人公の手に渡る事はない。】
 このようなエピソードでは、主人公が謎に答えられなければ筋は進みません。筋を進めるためにはこの人物の謎にうまく答えて、道具を手に入れることが必要なのです。そしてそれは主人公の役目です。

■敵の役目は『主人公の邪魔をすること、必ず滅びること』です。

 昔話の中の敵は『悪という概念が人(動物)の姿をしている』ものです。複雑な心を持った人間ではありません。これは昔話の聞き手に子どもが多いことが理由の一つだと思います。

 人間は心の中の悪い面をコントロールしながら生きているものなのだという事を、小さな子どもが理解できるでしょうか?
 「良い者」と「悪い者」という理解ならできるけれど、一人の人物の中に良い者と悪い者が共存しているという抽象的な概念は理解しにくいのではないかと思います。昔話の主人公は「良い者」の象徴であり、敵は「悪い者」の象徴なのです。この二人はけっして和解することはありません。

 子どもはやがて自分の中に「良い者」と「悪い者」の両方があることを発見し、ショックを受けながらもそれを認めるでしょう。それまではお話の中の「悪い者」は最後まで「悪い者」のまま、お話の中できちんと片付けられなくてはならないと思うのです。
 ただそのとき私が気をつけたいのは、とくに敵が人間に近い姿の時には、できるだけ『悪者は自滅させる』ようにしたいということです。【敵が主人公を殺そうとした罠に敵自身が落ちて死んでしまう】というように。
 わけのわからない化け物なら「悪という概念そのもの」として解釈しやすいので、悪い敵だからやっつけるということもきちんと成り立つと思います。しかしそれが「人間」を感じさせるような敵だとして、もしもそこに自分を重ねてしまう聞き手がいたら、その聞き手は、「存在しているというだけで攻撃される」ことになってしまいます。考え過ぎかもしれませんが…
 だから、「自分が悪いことをしようとしたから、その自分の仕掛けたことによって自分が罰を受ける」という、自滅という滅び方が理解しやすいのではないかと私は思うのです。

 悪い人が最後に改心するような事を書きたいのならば、昔話ではなくもっと別のもの、その心理描写が可能な小説やシナリオやあるいは創作童話で書くべきだと思います。

 ここからは余談ですが、私のみっともない経験を、恥ずかしいのですがお話します。
 昔のテレビアニメで「心優しい主人公の少女がお金持ちの意地悪な少女にいじめ抜かれる」という物語を毎週心待ちに見ていた事がありました。毎週、主人公がいじめられるたびに私の心では意地悪な少女への憎しみが深まってゆきました。
 その主人公は最後には大金持ちになって幸せなラストを迎えるのですが、なんと驚くことに、最終回で主人公が意地悪少女と仲直り(?)をするのです。二人がにっこりと握手なんかをしているのです。
 「これは納得できない!」というのが正直な気持ちでした。あんな意地悪な奴が本当はいい人なわけがない、あの主人公はばかだ、今まで見てきて損した、とまで思いました。
 そしてこれの何が恥ずかしいのかというと、私はこのラストに激しく怒りを覚えたのに、他の同年代の女の子たちはこのラストを受け入れていたのです。しかも「良かったね」などと言っているのです。

 はっきり理由はわからないまでもその「差」が自分にとって良い事ではない気がして、私はその事を言うのをやめました。
 しかし実際はそれからずっと後まで、私はあの結末と自分の気持ちとの間に折り合いをつけることができませんでした。

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