キンドル本をKindle Unlimited で読んでいただけます

Amazonで販売している電子書籍「三十一郎(みそいちろう)」を、KDPセレクトに登録しました。
Kindle Unlimited にて、無料でお読みいただけます!

商品ページはこちら

リアルにしなくてもよい

 昔話のようなお話が作りやすかった大きな理由は、まず、シナリオや小説のようにリアルにする必要がなかったことです。

 シナリオや小説は時代や場所が決まっているので、きちんとその時代や場所で話が進んでいるようにしなくてはなりません。たくさんの調べ物や取材が必要です。それは過去の物語も現在の物語も同じですし、もし未来のことを書くとしても、自分なりにその時代の様々な環境を設定しておかなくてはなりません。
 そして登場人物についても、そこに一人の人物をきちんと感じさせなくてはならないので、その人物の性格や背景、生い立ちや家族構成、信念やトラウマなど、実際に書かないような細かなことまで考える必要があります。

 これらの作業にはたくさんの時間がかかる上に、私の場合は精神的にも負担でした。じつは私はマンガのシナリオを書こうとしたことがあったのですが、とても気持ちが重たくて完成させることができませんでした。

 その点、昔話は「むかしむかしあるところに…」と始まります。つまり時代も場所も特定されません。これでまず、時代や場所についての調査や設定は必要ではなくなります。
 登場人物についても同じで、「ひとりの子どもがいました」とか「気だてのいい若者がいました」というふうに、はっきり個人を特定しません。「気だてのいい若者」を、「どこそこに住んでいる誰々さん」と特定しないので、詳細な性格や背景や生い立ちや家族構成や信念やトラウマなどを設定せずに済みます。

 お話のなかではきちんと一人の人物として動かさなくてはなりませんが、これは易しいことです。「気だてのいい若者」はつねにそのように行動をし、途中で「気だてのいい若者」らしからぬ事を言ったりしたりしなければ良いのです。

 お話を作り始める前の準備にかかる時間と労力が少ないことが、作りやすい理由のひとつでした。

 それから、これは私の個人的な理由です。

 昔話ならリアルさを求めなくてよい、つまり、始めから終わりまで空想のままで済ませることができます。現実のことは考えなくて良いのです。私の精神的負担のほとんどが、このおかげでなくなりました。心が軽くなりました。

 お話を作ることに興味はあったものの、読むにも書くにも「リアルな現実世界」から離れることはできないと感じたシナリオや小説は、私を時々苦しい気持ちにさせました。
 まわりの人たちとうまくやっていけずに疎外感を常に感じていた自分にとって、リアルな現実世界、とりわけ人間関係についての心理描写や人物の性格背景の設定などの作業が、時々辛くなって、自分はどうしてわざわざこんな事をしているんだろうと思う事がありました。
 人の心理を深く掘り下げる事は、自分を放っておいて欲しいという自分の気持ちに逆行していて、私にはやりこなせないことでした。

 とても心引かれる物語がある一方で、私を暗い気持ちにさせる物語もあり、私は前者の物語を求めてお話を作ろうとしたのだけれど、リアルな世界を背景にそれをこなせる力は私にはありませんでした。

 私にとって、リアルな背景を持たないお話、昔話のようなお話に触れている時間は、現実を忘れていても良い、愉快な時間だったのです。

コメント

  1. 渋谷朋子 より:

    初めて書き込みさせていただきます。次世代書店のオーディオブックではお世話になりました。塑田さんの作品を読ませていただいたとき、とても懐かしい気持ちになりました。
    私には今、産まれたばかりの姪っ子がいます。その子がもう少し大きくなったら、塑田さんの作品を読んであげたいと思っています。
    最後はハッピーエンドに終わるお話は有無も言わせず暖かい気持ちにさせてくれます。今の子供達には刺激的なこの社会で、塑田さんのような作品がとても必要な気がします。想像力を育みながら優しい気持ちになれる。そんな作品をこれからも書き続けてください。
    応援しております。
    そしてまた、新作たちがオーディオブック化される日を楽しみにしています。

  2. 久子 より:

    渋谷朋子さん、コメントありがとうございます! こちらこそオーディオブックではたいへんお世話になりました、どうもありがとうございました。
    まだまだ思うように書き進められなくて苦労しておりますが、こうして嬉しいコメントを頂けると大きな励みになります。
    私の場合、誰に向けてというよりは自分に向けてお話を書いています。なので、私自身が面白いと思っても、他の人たち、とくに今の子どもさんたちには楽しいと思ってもらえるんだろうかというあたりがまだ疑問符で。(笑
    いつか渋谷さんの姪御さんが私のお話を聞いて喜んでくださったら、私も本当に嬉しく思います。これからも書き続けるつもりでおりますので、またお暇がありましたら読みにいらしてください。
    今日は本当にありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いします。