金のたまごを産むカニ@そだひさこ
むかしむかしある村に、貧乏なミュージシャンと2人の息子がいました。ある日ミュージシャンは、海辺でカニを拾ってきました。カニは毎日、金のたまごを産みました。ミュージシャンは金のたまごを売って、すぐに金持ちになりました。
さて、この村には売れない作家が住んでいて、作家にも2人の息子がいました。作家は、急に金持ちになったミュージシャンの家をのぞき見しました。そして、ミュージシャンが金持ちになれたのは金のたまごを産むカニのおかげだと知りました。作家はミュージシャンと取り引きして、カニを自分のものにしました。
作家は家に帰るとさっそく、カニの体をすみからすみまで調べました。そして、カニのおなかに小さな文字が書いてあるのを見つけました。そこには、こうありました。
「このカニの甲羅を食べる者は王になる。脚を食べる者の枕の下からは、毎朝お金が出てくる。」
作家は自分の息子たちに、このカニを食べさせようと考えました。そしてさっそくカニをあみに乗せて焼きました。カニが焼けていいにおいがしはじめると、作家は自分の息子たちを呼びに行きました。ところがそこへ、ミュージシャンの息子たちが、いいにおいにつられてふらふらとやってきました。そして、あみの上でおいしそうに焼けているカニを見て、がまんができなくなりました。そして、兄は甲羅を、弟は脚を、食べてしまいました。そこへ戻ってきた作家は、怒ってミュージシャンの息子たちを追い帰し、ミュージシャンと大喧嘩をはじめました。ミュージシャンの息子たちは家にいられなくなったので、2人そろって旅に出ました。
2人は一緒に旅を続けました。弟の枕の下からは毎朝お金が出てきました。だから2人は、お金には困りませんでした。
やがて分かれ道にやってきたので、2人は別々の道を行くことにしました。弟は兄に自分の指輪を渡して言いました。
「これを僕だと思って持っていてくれ。」
兄は指輪を受けとると自分の指にはめました。兄も弟に自分のサングラスを渡して言いました。
「これを僕だと思って持っていてくれ。」
弟はサングラスを受けとると、それをかけました。そして、兄は右へ、弟は左へ、それぞれ歩いて行きました。
兄は何日も歩いて、ある町に着きました。そこではちょうど王さまが亡くなり、大臣たちが次の王さまを決めようとしていました。大臣たちは、兄を王さまに決めました。
弟は何日も歩いて、兄とは別の町へやってきました。そしてその町で、女泥棒と出会いました。女泥棒は弟がどうして金持なのかを知りたくて、色々と探りを入れました。そして、弟がふしぎなカニの脚を食べてふしぎな力を手に入れたことを知りました。女泥棒は、ふしぎなカニの脚を自分のものにしようと考えました。そして弟を夕食に誘うと、弟のお酒にこっそり、わるい薬を混ぜました。それを知らずにお酒を飲んでしまった弟は、具合がわるくなって、カニの脚を吐き出してしまいました。女泥棒はすぐにカニの脚を自分がのみこみました。そして、弟が持っていたお金も全部奪い取って、弟を町の外へ追い出してしまいました。
かわいそうな弟は旅を続けました。しかしお金がないので、宿に泊まることも、食事をすることもできませんでした。何日も歩き続けた弟はついに、おなかがすいてあるけなくなり、草はらにたおれてしまいました。そして、そこにはえていた青い草を手でちぎって食べました。すると、弟の体は、たちまちロバの姿になってしまいました。弟はおどろきましたが、なにしろはらぺこだったので、ロバの姿のまま、青い草を食べ続けました。食べながら、弟は、悲しくて、くやしくて、ぼろぼろと涙を流しました。ロバはそこらじゅうの草を食べました。そして、青い草のそばにはえていた白い草も食べました。ところがそのとき、幸運な事に、弟のロバの体は、すぐに人間の姿に戻りました。もう一度青い草を食べてみると、たちまちロバになりました。白い草を食べると、人間に戻りました。弟は大喜びしました。
弟はさっそく青い草を持って、女泥棒のいる町へ行きました。女泥棒はちょうどこれから、夕食を食べようとしているところでした。弟は女泥棒に見つからないように、こっそり女泥棒の食べ物に青い草を混ぜました。それを知らずに青い草を食べた女泥棒は、たちまちロバの姿になってしまいました。弟はロバにつなをつけると、町の外へ連れて行きました。
弟はロバを連れて旅を続けました。そして、それとは知らずに、兄のいる町へやってきました。弟はこの町で、ロバに荷物を運ばせる仕事をみつけました。そして、ロバに重い荷物を背負わせ、棒で叩いて、ひどくこき使いました。ロバはよろよろになりながら、涙を流して働いていました。
この町の王さまがそれを見て、弟に、なぜロバをいじめるのかとたずねました。弟は言いました。
「このロバには、この仕打ちがふさわしいんです。」
そのとき弟は、王さまが指にはめている指輪を見て、王さまが自分の兄だと知りました。兄も、弟がかけているサングラスを見て、それが自分の弟なのだと知りました。2人は再会を喜び合いました。そして弟は兄に、ロバのことを話しました。兄は言いました。
「カニの脚を返してもらって、ロバを解放してやりなさい。」
弟は兄の言うとおり、ロバに薬を飲ませてカニの脚を吐き出させました。そして、ロバを町の外へ追い出しました。
王さまは弟を自分の次の位につけて、それからずっと仲良く暮らしました。めでたし、めでたし。
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