【作品_】「子ザルのショウジ」

子ザルのショウジ

昔々ある暑い国に、子ザルが一匹おりました。子ザルは名前をショウジといいました。
ショウジはある日、お爺さんザルから、こんなことを聞きました。
「寒い国に住んでいるサルは、温泉というものに入って温まるそうだ。」
ショウジはお爺さんザルに、温泉とは何かと聞きました。お爺さんザルは、
「それはまるで極楽のように気持ちが良いそうだよ。ああ、わしも死ぬ前に一度、温泉というものに入ってみたいものだ。」
ショウジは、温泉がどんなものなのか、どうしても知りたくなりました。

ショウジはある夜、こっそり家を抜け出しました。そして温泉を見るために、寒い国に向かって歩き出しました。
ショウジは何日も何日も歩きました。しかし、いつまでたっても寒い国に辿り着くことはできませんでした。ショウジは困りました。そして道ばたに腰をおろし、言いました。
「ああ、寒い国は本当にあるのかな。歩いて行ったら辿り着けるのかな。」
すると、それを聞いた渡り鳥が言いました。
「私は寒い国からここへ、百日間の旅をしてきたのよ。だからあなたもあと百日間の旅をすれば、寒い国へ行けると思うわよ。」
ショウジは渡り鳥におれいを言うと、また歩き出しました。

ショウジは歩きました。十日歩き、二十日歩き、三十日歩きました。ショウジはもっと歩きました。四十日、五十日、六十日歩きました。ショウジはもっともっと歩きました。七十日、八十日、九十日歩きました。そこはもうすっかり、冬のように寒い場所でした。ショウジは、温泉というものがどこにあるのか、あたりを探しました。しかし、あたりはただ寒い景色があるだけでした。ショウジは仕方なくまた歩き出しました。
やがて、つめたい雪が降ってきて、ショウジの頭に積もりました。雪はショウジの歩いている道にも積もり、ショウジの小さな足跡が、雪の上につきました。歩き続けるショウジの足は、冷たく氷のようになりました。ショウジはもう少しで、凍えて倒れてしまいそうでした。
そして百日たった時、ついに本当に、ショウジは雪の上にポサッと倒れてしまいました。
すると、物陰から見知らぬ大人のサルがあらわれて、倒れたショウジを抱え上げ、どこかへ連れて行きました。

しばらくするとショウジは、とても温かい、気持ちの良いところで目をさましました。そこは、見知らぬ大人のサルの腕の中でした。そして、大人のサルは、ショウジを抱えたまま、温泉に浸かっていました。ショウジは、温泉のお湯で温まったおかげで、命をなくさずにすんだのでした。
大人のサルはショウジから話を聞くと、こう言いました。
「せっかく暖かいところで暮らしていたのに、わざわざ凍えに来るなんて、おまえはおもしろい子ザルだなぁ!」
ショウジは、えへへ、と笑いました。大人のサルも、わはは、と笑いました。

次の日ショウジは、寒い国を後にして、なつかしい暑い国に向かって歩き出しました。
早く帰って、お爺さんザルに、温泉がどんなものか教えてあげなくちゃね!

おさるのジョージ?とかいうツッコミはナシで・・(笑

*  *  *

この記事を書いた人
たまに、加賀 一
そだ ひさこ

子ども時代はもちろん、大人になっても昔話好き。
不調で落ち込んでいた30代のある日。記憶の底から突如、子ども時代に読んだ昔話の場面がよみがえる。その不思議さに心を奪われて、一瞬不調であることを忘れた。自分は昔話で元気が出るんだと気づいた。

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