【三題噺】「黒い太陽」

黒い太陽

昔々あるところに、戦士がひとりおりました。戦士はたいへん腕の立つ男で、世界中のありとあらゆる悪者をひとりで倒してしまいました。
しかし、この世の中にあとひとり、この戦士にも倒せない悪者が残っていました。その悪者は、黒い太陽でした。黒い太陽は、昼間は本物の太陽の後ろ側にいて、太陽が沈んで夜になると、夜の闇にまぎれて現れ、悪事を働くのでした。夜の闇の中では、黒い太陽の姿は誰にも見ることができませんでした。
困った戦士は、世界中の王さまのところをたずねて、夜の闇の中でも黒い太陽の姿を見るにはどうすれば良いか聞きました。王様たちは皆、こう言いました。
「たいまつの炎で、黒い太陽を照らしなさい。」
戦士は夜になるのを待ちました。そして黒い太陽が現れると、燃えさかるたいまつの炎で黒い太陽を照らそうとしました。しかし黒い太陽は、いくらたいまつで照らしても、その姿を見せることはありませんでした。
困った戦士は、今度は神さまのところへ行きました。そして、夜の闇の中でも黒い太陽の姿を見るにはどうすれば良いかと聞きました。神さまは、赤いお守り袋を戦士に渡して言いました。
「これを持っていれば、必ず役に立つはずだ。」
戦士は夜になるのを待ちました。そして、お守り袋をしっかりにぎって、黒い太陽の姿を探しました。しかし、今度も黒い太陽の姿を見ることはできませんでした。
困った戦士は、今度は、太陽のところへ行きました。そして、夜の闇の中でも黒い太陽の姿を見るにはどうすれば良いかと聞きました。太陽は、戦士が持っているお守り袋を見ると、言いました。
「今日、私が西の空に沈むとき、黒い太陽に気付かれないように、私をそのお守り袋の中に入れなさい。そして、夜の闇にまぎれて黒い太陽が現れたら、私を袋の外へ出しなさい。私から隠れていられる者は誰一人いないのだから。」
戦士は西の空で太陽が沈み始めるのを待ちました。そして、もう少しで太陽が全部沈んでしまう、というときに、すばやく太陽をお守り袋に入れました。黒い太陽はそれに気付きませんでした。
夜になり、闇にまぎれて黒い太陽が現れました。戦士はすぐに、お守り袋から太陽を外へ出しました。すると、夜の闇はたちまちのうちに昼間のように明るくなり、闇に隠れていた黒い太陽の姿は、はっきりと戦士の目に見えました。そして、戦士はようやく、黒い太陽を倒すことができました。
こうして、世の中は平和になりましたとさ。めでたし、めでたし。

昨日の分でございました。- -;

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この記事を書いた人
たまに、加賀 一
そだ ひさこ

子ども時代はもちろん、大人になっても昔話好き。
不調で落ち込んでいた30代のある日。記憶の底から突如、子ども時代に読んだ昔話の場面がよみがえる。その不思議さに心を奪われて、一瞬不調であることを忘れた。自分は昔話で元気が出るんだと気づいた。

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コメント

  1. たぬうさ より:

    うわー、この「黒い太陽」、相当な悪(悪と書いてワルと読む)ですな。今の世の中にいろいろはびこっている悪のような感じがしました。倒すことができてよかった。ホント、めでたし、めでたしです。
    ヒーローが太陽を倒すというパターンは、中国の九つの太陽伝説など(ほかの地域にもあったと思うんですが、思い出せない……)にありますが、あれは旱魃という天災を倒すことを願ったものが物語りとなったのではないかと思いますから、「黒い太陽」は新鮮な感じで読みました。それにしても、神様っていつもアイテムとヒントしかくれないのね(笑)。

  2. 久子 より:

    あはは、いつもヒントしかくれないってホントかも。
    それにしてもたぬうささん読書家なんですねー。
    何も知らない私はたいした意味も込めずにナントナク書いているので、まさか太陽を倒すわけにはいかないだろうと思って黒い太陽を登場させたのですが、太陽を倒す話があると聞いてびっくりでした。(笑

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