【三題噺】「町長さん」

町長さん

昔々あるところに、大きな町がありました。大きな町のまん中には、町長さんの家がありました。
この町の人たちは、よく道に迷っていました。そこで町長さんは、家の前に椅子を置いて腰かけて、道に迷って困っている人に道を教えてあげていました。

ある夏の日の事でした。夜になり、町長さんがそろそろ家に入ろうと思ったとき、町長さんの前に、幽霊がゆらゆらと現れました。幽霊は、ちょっと遊びに出たら道に迷って、自分のお墓に帰れなくなったのだと言いました。町長さんは幽霊に道を教えてあげました。幽霊は町長さんにおれいを言うと、ゆらゆらと自分のお墓に帰って行きました。

ある秋の日のことでした。赤とんぼを追いかけて走っていた子どもが、夢中になって走っているうちに知らないところまで来てしまったと言って泣いていました。町長さんは、子どもを家まで送って行ってあげました。さっきまで子どもに追いかけられていた赤とんぼは、今度は子どものあとについて飛んできました。そして子どもが家に入るのを見ると、安心してどこかに飛んで行きました。

ある冬の日のことでした。町長さんは椅子のそばにストーブを置いて、ストーブにあたりながら座っていました。町長さんの膝には、いつの間にか野良猫が丸くなって暖まっていました。買物帰りのお母さんや、学校帰りの子どもたちが、暖かいストーブに寄り道して行きました。町長さんは楽しい一日を過ごしました。そして、夜になったので家に入ろうとしました。しかし、膝の上の野良猫は、町長さんの暖かい膝から降りようとしませんでした。仕方なく町長さんが野良猫を抱き上げようとすると、野良猫は町長さんのズボンに爪を引っ掛けて、全力で膝にしがみつこうと頑張りました。町長さんは仕方なく、野良猫を膝にくっつけたまま家の中に入りました。

ある春の日の事でした。町では桜の花が満開になりました。町の人たちは、町のあちこちに集まってお花見をしていました。墓地の角では、夏に道に迷っていた幽霊が、お酒を呑んで、ゆらゆらといい気持ちになっていました。公園では、秋に赤とんぼを追いかけていた子どもが、家族と一緒に楽しそうにお弁当を食べて笑っていました。そして、町長さんの家の前には、町長さんがいつものように椅子に座っていました。そしてその隣には、もうひとつ小さな椅子が置かれていました。小さな椅子には、そう、冬に町長さんの膝で丸くなっていた野良猫が、とろりと気持ち良さそうに伸びて眠っておりました。
町長さんは、お花見のごちそうに、チーズを一切れ切って、猫のそばに置いてやりましたとさ。

このまえサボった分です。でもあと二回分残っているのでした。なは。

* * *

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この記事を書いた人
たまに、加賀 一
そだ ひさこ

子ども時代はもちろん、大人になっても昔話好き。
不調で落ち込んでいた30代のある日。記憶の底から突如、子ども時代に読んだ昔話の場面がよみがえる。その不思議さに心を奪われて、一瞬不調であることを忘れた。自分は昔話で元気が出るんだと気づいた。

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コメント

  1. たぬうさ より:

    お久しぶりのコメントです。通ってるんですけどね。幽霊が酔っ払ってるのがツボに入りました。わはは。
    久子さんが元気そうで良かったです。

  2. 久子 より:

    お久しぶりですー
    お返事する気力が出そうにないときははじめからコメント欄つけないので、いつもコメントくださってる方にはちょっともうしわけない気持ちだったです。
    覗いてくださっててありがとう。気温も穏やかになってきたかな、元気回復してます。

  3. たぬうさ より:

    なんのなんの。わかりやすくて、ああこういうカスタマイズができるといいなと思いました。ブログによっては記事ごとに設定できないものもありますから。
    私が書き込みしないときは、
    1、さぼり
    2、気力なし
    3、管理人さんへの気づかい(3番目かい!)
    なので、捨て置いてください。自分のブログではよくせっかくくださったコメントに返信つけないという言語道断管理を行ってる場合もありますから。まとめ返信も多いし。要はめんどくさがりやなんですな。
    私も少しなんかをする気力が出てきたので、具合が悪かったのはやっぱり異常気象のせいでしょう。

  4. 久子 より:

    ここのサービスはアフィリエイトOK(楽天だけとかいう限定なし)なのと、ひとつのアカウントでいくつもブログがもてるのとがいいなと思って決めたのです。どちらもそれほど活用できてないんですけど(笑
    たぬうささんも気力が戻ってきて良かったです。

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